思い出補正 ページ8
少し肌寒いけれど、首に巻いたストールが丁度良い。
松本に返してもらったストールは、どんなクリーニングを施されたのか分からないがなんだか手触りが良くなっている気がする。
(あれかな、思い出補正ってやつかな？)
一人笑って歩き出したAの耳に、春の夜の喧騒の中でもどこか眠ったようにぼんやりした空気を裂く着信音が届く。
「！ ‥‥あ」
こんな時間に知らない番号からの着信、いつもなら絶対に出ない。
と言うか、登録してなかったのか私‥と自分の迂闊さを笑う。
けれど、今は。
「もしも――『遅い』
深呼吸を繰り返して通話をタップした電話の向こうの、それはそれは不機嫌そうな声。
ひえっと思う。同時に、そんなに沢山聞いたことは無いけれど、誰なのか分かってしまう。
「すみませんっ！ あの、松本さん？」
『うん、で、遅い』
「えっとごめん、もう寝てたのなら本当にごめん」
なんだろう、嵐のメンバーは電話口では相手に食い気味なんだろうか。
いつぞやの二宮の勢いを思い出してちょっとだけ口元が緩んでしまう。
素直に謝罪すれば、電話の向こうで松本が言い淀む。Aは、すぐに折り返してくれるなんて松本さんは律儀だなぁと思っている。
『違う、その、連絡くれるのが遅いっつってんの』
「うん？」
『おねーさん、もしかしてメモ見たの最近？』
「いやあの日には見たよ」
きっぱりと言い返せば、『じゃあなんで』とふてくされた声が耳に届く。
なんだかそんなに知らないのに、松本の表情まで想像できてしまいAは小さく笑った。
「いやそりゃ普通に考えて悩みますよ。突然芸能人とお知り合いになって連絡をくれってなったらもうドッキリかなって」
『そこまで考えんの！？』
「松本さんにはどうってことなくても、私にはハードルが富士山並なの」
『富士山て‥‥まぁいいけど、連絡くれてありがとう』
「こちらこそ遅くなってごめん。あと、あのありがとう」
『ん？』
「スカーフ、びっくりしたけどとっても素敵で気に入った！」
『そっか、良かった』
その声音が優しくて、電波越しでも松本が微笑んでいる姿がありありと思い浮かんだ。想像の中の彼もイケメンである。
電話越しのちょっと低くなめした皮のような感触の声が耳に馴染む。
その間延びしたような、独特な風合いの声音にAはもしかして、と思う。
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お塩(プロフ) - ゆぃさん» ゆぃさん、一気読み疲れないですか？今後どんどん長くなる上に、どんどん何なのこの人たちってなるので(笑)ありがとうございますー！ (2021年10月3日 19時) (
レス) id: c86e5730cc (このIDを非表示/違反報告)
ゆぃ(プロフ) - 小出しもいいけど、一気に読めると尚嬉しいから 一気に出しても大丈夫ですよ~♪ (2021年10月3日 13時) (レス) @page29 id: 7a81be16ec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：お塩
| 作成日時：2021年9月29日 1時
