教えて、七海先生！ (ページ44)

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五条と七海② ページ44

「でも、それも必要ないみたいだったね。七海はもう過去を乗り越えてた。自分の力で」
五条さんはそう言ってグラスの中の酒を飲み干した。
私は、自分の力で乗り越えたのだろうか。
灰原の過去を、乗り越えられたのだろうか。
自分では正解がわからなかった。けれど、五条さんから見てそうなのだから、もしかしたらもう乗り越えいるのかもしれない。
それはきっと、この呪術というクソみたいな世界でも、私のことを考えてくれる人がいるからだ。
「まだ…乗り越えられたのかどうかはわかりません。けれど、あの時の五条さんの言葉を受け入れてよかったとは思っています。あの言葉がなければ、私はAさんとは出会っていなかった訳ですから」
教師だった1ヶ月を振り返る。
確かに、大変ではあった。教師と呪術師という2つの仕事を両立しなければいけなかったから。これを何年もこなしている五条さんのことは、改めてすごいとは思った。
けれど。
それ以上に、かけがえのないものと出会えた。
Aさんという、大切な人に。
絶対に失わないと、そう心に誓えるような人と出会えた。だから、あの選択は間違っていなかった。そう思えるほど、私はAさんに惚れていた。
五条さんからの返事は聞こえてこなかった。
はっとして前を見ると、目の前には酒に酔って潰れた上司の姿があった。
「…はぁ」
眠った上司への怒りと一人語りした自分への恥ずかしさから私はため息をついた。
けれど。
やはり、わかった。
何年も追ってきたその背中が、間違いでなかったことが。
そして、もうひとつ。
目の前で隣で眠ってしまった最強の上司が。
本当は、誰よりも他人思いであることを知っている。