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めいちゃんside
「…はい、みんなめいちゃんって呼んでます。あの…先輩はなんて名前なんですか」
俺は彼女がなんで地面を見つめ思い詰めた雰囲気だったのかが未だに引っかかっていてもどかしい、しかし俺の勘違いのような気がして触れるのは止めておくことにする。
屋上の床に二人座り込みながら風に当たっていた。
夕焼けのオレンジも段々と深い闇に呑まれていく。
彼女は深呼吸をしてから俺に名前を教えてくれた。
「私はセンラくんと同じクラスのAAって言います、よろしくね」
改めて彼女と顔を合わせる。
照れくさそうに笑っているがやっぱりどこか儚げ。
風に靡いている髪に光が反射、彼女の眼差しは柔らかい。
可愛い部分も伺えるのにどちらかというと綺麗さの方が際立っている印象。
いいなあ、センラ先輩。
こんな子が同じクラスにいるだなんて。
素直に羨ましい。
俺だったら毎授業視線送っちゃうレベル。
俺が異性の先輩と話すのはもちろん彼女が初めてだった。
折角の機会だ、俺は勇気を出して言ってみる。
「…A先輩って呼んでもいいですか」
「もちろん。私はめいちゃんって呼ぶね。その呼び名なんかかわいいし」
彼女は俺の方を見て嬉しそうにまた微笑んだ。
"かわいい"って言われるのは男として複雑だと思っていたのに全く悪い気はしなかった。
「A先輩はどうして屋上なんかに来てたんですか?」
「気分転換したかったんだよね、新学期だしちょっと気持ち切り替えたくて」
…"気分転換"。
やっぱり俺の勘違いだったのだろうか。
俺が身を抱き寄せてまで彼女を助けてしまったことがちょっと恥ずかしくなる。
「…そういうめいちゃんこそどうしてここへ?」
「えっと…それはちょっと言えないデス」
どうやら俺は墓穴を掘ったようだ。
あからさまに動揺してしまう。
ここの屋上で歌を歌うのはもちろん自分一人の時のみ。
誰にも知られていない俺一人の秘密の特訓なのだ。
"屋上で歌を歌いに来たんです"なんて言いづらすぎる。
そんなの異性でしかも先輩に知られた暁にはあまりの恥ずかしすぎて蒸発してしまうだろう。
そんな俺の様子を見て先輩は不思議に思ったのか俺の顔を伺ってから俺の荷物の方に目線を送った。
スクールバッグにつけられたリストバンドやギターピックのキーホルダー。
それを見て彼女は今日一番の笑顔を見せる。
「…めいちゃん音楽好きなの?」
宝石のような目がまたキラリと光った気がした。
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作者名:ふわむにゃ | 作成日時:2021年9月2日 2時