俺と先輩【mychan】 (ページ16)

今日:2 hit、昨日:5 hit、合計:18,304 hit

15 ページ16

Aside

浮かない気分の時こそめいちゃんの歌声が聴きたかった。
それなのに彼が私を屋上に誘うことはぱたりと止んだ。

最悪のタイミングだと思うし自分ってなんて我儘なんだろうとつくづく思う。

私はめいちゃんを拠り所にしすぎていたんだ。
めいちゃんは私じゃないからもっと活発に動けるしやりたいことも沢山あるだろう。
やっぱり周りの友達と一緒で私と同じ境遇にいるわけではない。
共通点が音楽だっただけで。

いいなあ、めいちゃん。
歌も歌えるし沢山走れるし…誰に対しても明るく接することができる。
好かれるために必死な私とは大違い。
彼のスペックの良さに妬みを感じつつも惹かれてしまう。
めいちゃんのような子は他にもいるだろうけどなぜか彼に執着してしまうし、彼の隣にいるのは自分が良いと思うようになってしまった。

そしてめいちゃんと出会う前と同じような放課が続いた。
帰りのHRが終われば徒歩1分の家に帰る。
皮肉にも学校のグラウンドが見える自分の部屋で受験勉強をするのだ。
興味もない理科の教科書を開いて。

………この状況が二週間ほど続いたある日のこと。
めいちゃんが放課後に三年の教室に顔を出した。

彼はセンラくんを手招きしていた。
そして何か会話した後にセンラくんが私のほうにやって来た。

「めいちゃんがお呼びやで」

ニコ…と笑う彼は私とめいちゃんに恋の雰囲気を感じているような顔をした。
そうなれるのなら本望、と思いながら私は冷静に彼に向き直った。
「ありがとう」と返して私は荷物をまとめ、めいちゃんの方へと足を進める。

「A先輩、お久しぶりです。屋上行きましょう！」

「うん、」

私はめいちゃんの柔らかい笑顔を見て口元が緩みそうになった。
あれだけ彼にも嫉妬の気持ちを募らせたというのに本当に自分はちょろい。

屋上の階段を彼の一歩後ろでゆっくりと上がった後に彼は言った。

「実は最近部活が忙しくなっちゃってて…」

「そうなんだ、めいちゃんって何部？」

知ってるくせに知ってないふりして聞いてしまった。

「あれ、てっきり知ってるかと思ってました。陸上部です、A先輩は？」

…墓穴掘った。
せめてめいちゃんの前ではどこにでもいる元気な先輩でいたかったのに。
「部活してない」とでも言ってみろ、とっかかりがなくて味気ない人間だと認定されてしまう。

「部活してないんだよね…」

馬鹿正直な私。
そのまま素直に答えてしまった。