3.初夜 ページ4
この女(以下猫とする)についてまとめる。
女。推定20歳前後。持ち物に身分証、財布はなし。青い何かの花だけがポケットに入っていた。出会った時の状態から親に不意に追い出され、不審に思った警察から逃げに逃げたとかそんなとこだろう。
これから事情聴取を始める。
「お前名前は?」
「………ズズッ」
「歳は?」
「………ズズッ」
「どこから来た?」
「……ズズッ」
「まさか喋れないのか?」
「……ズズッ」
上品にホットミルクをすすってやがる。○してやろうか。こいつ。
猫は喋らない。知的なあの嫌な目で俺を見てくる。まるで早く理解しろよとでも言いたげに。
俺は猫との会話を諦め、コンビニの袋からおにぎりを一つ取り出した。
「食うか?」
しばし俺を見つめ、受け取った。俺も自分用のおにぎりを取り出し食べ始める。
猫はもしゃもしゃと食べている。
家に来た時より大分顔色がよくなり、もう元気そうだ。明日の朝一番に追い出そう。
冗談抜きで猫が未成年だった時の俺の立場が危うい。俺が未成年だった時はお構いなしに家に居座り色々としていたが、それとは違う。
「ブーッ。ブーッ。」
先月の一晩女から電話が来た。猫のそばを離れ電話に出る。
「もしもし。久しぶり。突然でごめんなさい。私あなたに伝えたいことがあって。私……。私……ね。やっぱり、あなたのこと好きみたい。あなたが私の心にずっと残ってるの。リピートないから私はあなたにとって価値のない女なのはわかってるんだけど、でも……。」
「別に価値がないとは思ってない。」
「じゃあ、私にも……。」
「俺と関わり続けるのが一番価値がないよ。」
プツっと一方的に電話を切り、ブロ削する。
誰かが嫌いなんじゃない。俺自身が一番俺が嫌いなんだ。
ソファの元へと戻るとソファ前の机で突っ伏して寝ていた。
「お前に気づくのが俺じゃなかったらな。」
そう小さく呟いた俺は猫を抱き上げベッドへと寝かせた。
少し眉間に皺が寄っている。悪夢でも見ているのだろうか。
頭をなでてやると、少し表情が和らいだ気がした。
机の上の猫が持っていた花を眺める。たんぽぽのように花が丸くついていて、トゲトゲしているように見えた。
俺にはなんの花かわからないが猫になんだか似ているなと思った。
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:金魚 | 作成日時:2020年4月9日 22時