47. -side.N- ページ13
「じゃあ取りに来る？今からうちに」
「うちって二宮くんの家？」
「うん」
「家……はちょっと」
「何もしませんよ」
「わかってるけど」
「もうほとんどパソコンのハードディスクに保存してある分しか残ってないんだわ。
それをディスクに落とす作業一人ですんのむなしいし、コーヒーくらい付き合ってくれてもいーじゃん」
そう言ったらAが断れないのはわかってた。
「わかった、じゃあそうさせてもらうね」
ほんとにやましい気持ちじゃなくて。
いやまあ、やましい気持ちが1ミリもないかって言われるとあったかもしんない。
だけどそれは、もうちょっとだけ一緒にいたい、とか、そういうもんだった。
俺たちはハンバーグとビーフシチューを平らげると、会社の近くにある俺のマンションに向かった。
Aが遠慮がちに玄関から入ってくる。
「お邪魔しまーす……」
「どーぞ、適当に座ってね」
俺はリビングに置いてあるノートパソコンを立ち上げた。
Aはパソコンの向かい側に座る。
俺は立ち上がると、冷蔵庫から缶ビールを2本取り出して1本をAに渡した。
「コーヒーじゃなくてこっちでもいい？」
「じゃあ、1本だけ」
カツン、と缶と缶を当てると、俺はパソコンで作業を始めた。
Aはちびちびビールを飲んでいる。
「……で？どうだったの？」
「どうって？」
「櫻井さんち、行って。ドアぶち壊せたわけ？」
「中には入れてもらえたけど…」
黙ってしまったAをちらり、と見る。
昨日櫻井さんちに行ったAを見送った時は、もうこれでおしまいって思ってた。
俺が思ってるよりずっとAの櫻井さんを思う気持ちは強いんだなって思ったし。
櫻井さんがAに特別な感情を抱いてることも、俺は知ってる。
今日会ったらすげえ幸せそうな顔してんだろな、ムカつくわ！って思ってたのに。
いきなり会って言われたのは、俺が昔撮った映画のこと。
櫻井さんもAを避けてるぽかったし。
なんだこれ、どうなってんの。
「何を悩むことがあんの？」
「櫻井さんには言いたいことを言った。もう、私ができることないんだ」
「ふーん……」
カチカチとマウスをクリックする音が響く。
「俺ももうできることないんだろなって思ってたんだけど」
Aと目が合った。
「そーでもない？」
あー、やっぱ言うんじゃなかった。
何もしませんよ？
なんて。
言うんじゃなかったわ。
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作者名：つむ
| 作者ホームページ：
作成日時：2018年1月22日 18時
