四十三輪 ページ44
「卒業証書授与」
教頭先生の声に一斉に三年生が立ち上がる
担任の先生が自分のクラスの生徒の名前を読み上げる
「…海原琴音」
「はい」
琴音が小さく返事をする
彼女は公立の受験に失敗してしまったものの、その他の高校からは合格をもらい、春からは誠凛に行くことを選択した
誠凛に受かったと電話で報告してきた時、とても嬉しそうだったのを思い出す
「…香芝奈津美」
「はい」
奈津美が体育館全体に響くように声を出す
彼女も無事に誠凛高校に合格し、春から誠凛の生徒になる
先輩にもそれを報告して、すでに高校の練習に参加させてもらっているらしい
みんなそれぞれに進んでいく
そして私も____
「川田真奈」
「はい」
名前を呼ばれ返事をする
壇上で担任の先生が微笑んでいる
その表情は『頑張って』と言っているようだった
…先生にはたくさん迷惑をかけた
特にこのラスト半年は
突然の推薦辞退の申し入れに担任の先生はもちろん両親、学年の先生までもが驚いた
どの先生も『考えなおせ』、『一時の感情で物事を決めるな』と私に忠告してきた
両親も『せっかくのチャンスを無駄にするな』と散々諭してきた
確かに私のとった行動は突拍子もないことだし、子供じみた浅はかな考えだったと思う
でもそんな考えを突き通そうとする私を担任の先生は応援してくれた
『正直もったいないことだと思うわ』
私のあの突然の行動の翌週、放課後先生は呼び出した私にそう言った
私はただ俯くことしかできなかった
自分でも悩んではいた
本当に自分の行動は正しかったのか、後悔することになるのではないか
でもどう考えても”変わってしまった彼を見たくない”という気持ちには優らなかった
『若いっていいわねー』
先生はそう小さく呟いた
『川田さん』
名前を呼ばれ、私は恐る恐る顔を上げた
『必ずしも自分のとった行動が、選択が最善のものであったかは分からないわ。でも最善のものであったと言える努力はできると思うの』
先生は微笑みながら言った
『…推薦の辞退、分かったわ。私から先生方に伝えとく。ただし…』
まっすぐ私の顔を見た先生は今まで見たことのない真剣な顔をしていた
『いつか昔を懐かしむような時が来たら、その時は自分のとった行動は最善のものであったと言えるように努力はしてね』
そう言ってくれた先生がいたから私は自分の浅はかな考えを突き通すことができた
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作者名:ルナ | 作成日時:2014年6月28日 16時