三十四輪 ページ35
控えめに聞こえた声に振り向く
そこには桃色の髪を高い位置で結んでいる美人さんが
確か…桃井さつきちゃんだっけ
彼女も校内有名人の一人だ
一軍のマネージャーでしかも美人さん、なんて噂の的になるのは目に見えている
「あ、ミドリンの彼女さんだっけ?」
「……あぁ、はい」
一瞬の間は彼女だと自信を持って言えないから
ぎこちない笑みを浮かべた私を桃井さんは不思議そうに見た
「もうすぐで練習終わるよ。良かったら中で見る?」
「ううん、大丈夫。もう帰るところだし。塾もあるから」
「そうなの?でもミドリンに会っていったら?呼んでくるよ?」
私が断るよりも体育館の中から緑間が顔を出した
「桃井、赤司が呼んでいる…。……川田…」
「あ、えっと。たまたま通りかかったから…」
気を利かせたのか桃井さんはもうここにはいなかった
「いきなりどうしたのだよ」
彼が迷惑そうに顔を歪めた気がした
「さっきまで先生と面談だったの。帰ろうと思ったらボールの音が聞こえたから…」
「そうか」
沈黙
この間までは沈黙ですら心地のいいものだったのに、今は息苦しい
早くこの場から逃げたい
「私はそろそろ…」
「もうここには来るな」
帰るね、と言いかけた言葉は緑間の言葉によってかき消された
とてもとても低い声で
「…ごめん、もう一回言ってもらっていい…?」
語尾が震えていたのはきっと気のせい
そう思い込もうとした
「もうここには来るなと言ったのだよ」
彼の言葉はとげとげしくて
怒気を含んでいるのは声色で分かった
「…どうして?」
そう言った自分の言葉は震えていて、今にも消えそうだった
「今までだって来たことあったけど、そんなこと言わなかったじゃない。それに今日は見学するために来たわけじゃないって言ったはずよ?」
必至こいて反論している自分を心の中の自分が嘲笑している
とてつもなく空しい気持ちが私を襲う
「…気が散ってしまうのだよ。そろそろ全中の予選だって始まる。それを邪魔されたくない」
「…邪魔?」
「居残り練に顔を出したり、寄り道しようと誘って来たり…。悪いが今はバスケに集中したいのだよ」
彼はあの濁りきった翡翠色の瞳で私を見た
その瞳に私は映っているようで映っていない
「……うん、そうだね。中学最後の試合だし、集中したいよね…。ごめん」
小さくか細い声しか今の私には出せなかった
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作者名:ルナ | 作成日時:2014年6月28日 16時