【呪術廻戦】目の前の最強さん

143 ページ43

．


母の病室に着いたのは、またもや面会時間も終わりに近付いた頃だった。
術後間もない母の容態が安定しないからだろうか、以前とは違う部屋に両親は居た。



「落ち着いてから連絡しようと思ってたのに」
「職業柄いつ会えなくなっても可笑しくないんでね、お義母さん」



僕はともかく彼女は、と私の肩を叩く五条さんには、不本意ながら同意見だ。最強ともなればその運命から外れるけれど、所詮私は一級の呪術師。大抵の現場では怪我で済んでも相手が悪ければ死ぬ。仲間だって、いままでどれだけ送りだして無言で帰ってきたことか。二度と戻らなかった人だって数え切れない。
死に目にだって会えるか分からないのだから、生きているうちは尚更会わなければ。



「気分はどう？」
「貴女達に会えたから今はとてもいいのよ」



お母さんはニコリと穏やかに笑うけれどその顔色はとても健康的とは言えないし、体はベッドから上がらない。繋がれた管も前より増えていて、傍のモニターの数値は僅かに上下しつつも母が安定していることを示している。この全てが、母を生かしている。



「情けないでしょう？反転術式使えても死からは免れないのよ」
「…知ってるよ。散々お母さんが教えてくれたから」
「それはAが自分を大事にしないからでしょう？貴女のことだからきっと私の仕事(････)も継いでしまったのだろうし」



ギクリ、と体が強ばってしまいそうになったのを堪える。やはりお母さんには何も隠し事など出来ない。僅かに鋭いその視線は、きっと私を思ってのものだ。
五条さんの手前、具体的な話をすることも出来ず、ただ「ごめん、でも大丈夫」と小さく呟いて、話題を母の容態に戻す。
食事は出来ているのか、長くなってしまった入院生活は辛くないか、手術は不安ではなかったか。どの質問にも母はやはりニコリと笑って「大丈夫よ」と返すだけ。昔から「辛い」「もう嫌だ」といった弱音は一言も吐かない人だから予測は出来ていたけれど、本当に大丈夫ならきっと顔色もいいし声にもっと覇気があるだろうし、体を起こして私達との会話に花を咲かせているだろう。
もっと娘を頼ってくれたらいいのに。私が言えた口じゃないけれど。



「悟くんにも迷惑かけてしまって、本当にごめんなさいね」
「そんな事言わないで。家族になるんだから顔を見に来るのは当然のことじゃないですか〜」



どちらも本心なのかは怪しいけれど、お母さんと五条さんの仲は悪くないらしい。


．

144→←142

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す