15話 智side ページ16
静かにドアを開けると氷を持った雅紀が走ってきていた。
それに入れ替わるように僕は部屋を出る。
彼女は少し前から熱が上がっていたんだろう。解熱剤を入れているはずなのに顔は赤くて、首に触れた手へ伝わる熱は予想以上に熱かった。
僕らが出会ったのは彼女が11歳のとき、両親と一緒にこの病院へ運ばれてきた。
彼女の両親は事故の衝撃で即死だったが、Aちゃんは両親の腕に守られるように包まれていたため唯一助かった命だ。血だらけの体で朦朧とする中、泣きもせず痛みに耐えていた彼女はもうすでにどこかで自分を責め始めていたのかしれない。
処置のあと、お兄さんが慌ててきていたのを翔が落ち着かせていたのを覚えている。
彼女はそのままICUへ移り、一般病棟へ移る際にPTSDの症状がみられるということで担当になったのが俺だった。
PTSDは簡単に言うと事故のショックで様々な症状が現れることだ。一般的に言われるのは不眠や否定的で悲観的な思考、過去のフラッシュバックなどが現れることなどだろう。
事を上げればきりがない。
彼女は最悪な状態を切り抜け一般病棟に移れるようになってからもまるで生きることを避けているかのように眠り続けた。
そして病室が変わってから2週間ほど経った朝、検温に来た看護師さんの声掛けでようやく彼女は目を覚ました。
僕のところへ連絡が回ってきたときには考える前に彼女の病室へ走っていた。
部屋へ着くと翔がAちゃんに話しかけている声が聞こえてきたが彼女からの返答は1つもない。
「コンコン」
驚かさないように優しくドアをノックし中へ進むと、さっきまで彼女と話していた翔の声が俺に向いた。
翔「智先生来てくれてありがとう」
智「ようやく目が覚めたみたいだね。Aちゃんの様子はどう？」
翔「状態は安定してる。ただ呼びかけに反応はない」
智「そっか」
翔「2人にした方がいい？」
智「いや今から1人だけ診察が入ってるんだ。お兄さんに連絡は？」
翔「伝えたらすぐにくるって」
智「じゃあお兄さんが来たら連絡して」
翔「分かった」
病室を離れる前に彼女のほうを1度見れば窓に穴が開きそうなほどの視線が向いていた。
今は翔が付いていてくれるんだ。安心して診察を進めよう。
＊
それから1時間が過ぎた。
きっとAちゃんのお兄さんはもう着いてるだろう。
翔へ「今すぐ向かう」とだけ伝え足早に彼女の病室へ向かった。
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空蝉(プロフ) - naoさん» ご指摘ありがとうございます。すぐに直させていただきました。 (2020年2月3日 21時) (
レス) id: 94fcae9fee (このIDを非表示/違反報告)
nao(プロフ) - 登場人物のところの紹介の友人の所が桜井のって全部なってるけど、桜木の間違いですよね。 (2020年2月3日 2時) (レス) id: 3ab06130a8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：空蝉 | 作成日時：2020年1月27日 22時
