見せない涙 (ページ6)

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エレベーターの扉が開かれる直後、先程静かに姿を消したムルの声が何処かで聞こえてきた。何故、ムルが私の本名を知っているかは疑問に思ったが口に出すことはなく、私は静かに目を伏せた。ムルの気配が完全に消えた後、停止したエレベーターの扉がゆっくりと開かれる。

「賢者様……！」

開かれた扉の向こうに佇む老男が驚愕な表情を浮かべて目を見開く。

「賢者様がいらっしゃったぞ！魔法使い共が召喚に成功した！」
「賢者様、ばんざい！」
「ばんばい！」

ほぼ初対面の筈の人達から何故か分からないが歓迎されている様子。

「さあさあ。此方へ賢者様。ようこそ来て下さいました」

人の良い笑顔を浮かべて老男は私へ近寄る。そして、私の手を優しい手付きで握り握手をする。

「私は中央の国の魔法大臣。ドラモンドと申します」
「ええと。私は中央の国の書記官。クックロビンです」

老男の隣から現れた身なりの良い若い男。老男とは違い物腰の柔らかい雰囲気が感じられる。

「さあ、賢者様！魔法使い共が此処に来る前に、中央の城にお連れしましょう！」
『？何故？』

出会ったばかりの小娘を何故、城へ連れて行く必要があるのだろうか。それに、先程から老男から度々出て来る『魔法使い共』の単語も気になる。

「賢者様をお待ちして居たのです！賢者様には『大いなる厄災』と戦って、世界を救って頂きます」
「……？」
「ああ、ご心配しなくても大丈夫ですよ。危ない事はありません！戦うのは魔法使い共です！」
『魔法使い？』
「ええ。ですが、此奴らがまあ。猫の様に言う事を聞かない連中でして。何故か決まって昔から、異界からやって来た賢者様の言う事しか聞かないですよ」

ああ。今、やっと理解した。あの時は、半分寝惚けててムルの話を半分以上は聞き落として居たが。全て理解した。そりゃあ、エレベーターから突如現れた私を見て驚かない訳だ。人の良い笑顔を浮かべて居ながら。目の前の老男は、異界から突如現れた賢者と呼ばれる私を良い様に利用したい訳だ。私は、冷めた視線で老男を見詰める。

「ドラモンド様！ご報告が……」

1人の兵隊がドラモンドの側へ寄ると私へ聞こえない様に小さな声で、老男へ何かを報告している。

「なに！？魔法使い共が！？まずいぞ。あいつらがやって来る前に、急いで賢者を丸めこ……ごほん、賢者様と親しくならないと！賢者様、中央の国へ急ぎましょう！

やっぱり、彼等は鼻から私を利用する為に近づいて来たんだ。