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大門兄の吐息が耳を擽り若干擽ったい。
「察しろよ」
最後に、誰からも気付かれずに私の耳元に口付けを落として離れて行った大門兄。私は、耳に熱さを感じながら大門兄へ視線を向けて居ると、頭にハテナマークを浮かべた弟が兄に問う。
「? どういうことだい? 兄ちゃん?」
「ああ、弟。こいつは、頭が可笑しいんだ」
「……もういい? 兄弟喧嘩は帰ってからにして貰える?」
問い詰める弟を軽く遇らう兄を見詰めながら、私は一度だけ後部座席へ視線を向けて、乗客を乗せている事をさり気なく告げる。
「いいよ。とっとと、行け」
大門兄の気怠げな遇らいに、蓮は何も言わずに運転席の窓を閉めて、車を発進させた。
蓮が運転するタクシーを見届けた後、同じく検問をしていた双子の片割れが側へ寄って来る。
「なあ、兄ちゃん。指名手配のドブと兄ちゃんが仲良しって、どういうことだい?」
「おいおい、弟よ。あんな、タクシードライバーの言う事なんか信じちゃいけないよ」
「そうだよな。なんたって、タクシードライバーだもんな!」
「そうさ、あの憎いタクシードライバーさ」
「ひっでぇ奴だぜ!」
蓮との会話を弟に聞かれたのは誤算だったが、何時もの通り、弟を言いくるめてドブとの関係を疑わないように信じ込ませた。あくまで、大門兄とドブは無関係だと。弟は、兄を疑う事を知らない。兄とドブが仲間だと言う事を知る余地もない。無知で扱い易い可愛い双子の片割れ。ああ、それと。蓮の奴……後で覚えとけよ。
*
大門兄弟の検問を通り抜けた頃、後部座席の乗客が感激な声を上げる。
「うわー。警察の検問なんて初めて見た。今の写真、撮っとけば良かったな。ドラマで見た様なシーンじゃん」
「……嫌な人なのあの人。重箱の隅を突くような違反の取り方するんだ」
「ちゃんと、免許あるんでしょ?」
「うん。視力検査は勘で当てたけど」
「重箱ど真ん中じゃん。単純にこえーし」
「大丈夫。鳥目だから」
「なおさらじゃん」
先程のギスギスした雰囲気では無く、乗客と打ち解けた雰囲気の中で、蓮は少しだけ冗談まがいの事を話す。それを、乗客は笑いながら受け流した。そうして、相変わらずスマホを手に持ったまま、ある事を尋ねて来た。
「運転手さんは、なんでタクシードライバーになろうと思ったんですか?」
さり気なく聞かれた一般的な質問。乗客の言葉で脳裏をチラつく、後部座席へ深く眠りに就く父親の姿と運転手の仕事に就くのが、夢の一つだと告げた優しい兄の姿。
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作者名:クジラ大好きマン | 作成日時:2023年6月11日 23時