壊れていたのは…… (ページ35)

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開いて居たサイトは勿論、あのネットオークション。

「……3000円かあ」

入札件数は0。残り時間は、たったの3日だけだった。家で、パソコンを使えるのは兄が居ない時だけ。残された時間は限られている。駆け引きをしている時間は無い。田中は、マウスの右クリックを押して、直ぐに入札した。出品価格は3000円。小学生の田中からしたら実に3000円と言うお金は大金だった。それに、今入札した所で、まだ値段は釣り上がる可能性はある。

田中は、兄に不審がられないように、ネットオークションのサイトの履歴を消して、いつも通りの日常へ戻った。何食わぬ顔で家族と食事して、まるで自信がスーパーハッカーになった様な高揚感を覚えた。その翌日であった。

「えっ」

呑落消しゴムが売っている期間は残り2日。3000円から3500円へと価格が上がって居た。

「上がってる……」

そう、ライバルが居たのだ。今思い返せば、こんな馬鹿らしい事に熱を上げて居た田中は、何の躊躇いなく直ぐ様、3600円で入札した。そして、落札締切の日。

「よ、4000円……！？そんな……」

ライバルは何処までも強気だ。俺同様、この消しゴムを欲しがってる。相手が何処までの予算で落札してくる意図が見えない恐怖の中での戦い。これが、ネットオークションの醍醐味だと思う。けれども、こちらは誠実なのだ。4100と打ち込んで入札する。けれどと、相手は本当に強気だった。液晶画面に写された4500円の文字。田中は、どうしても相手に負けたく無くて相手よりも超える金額を打ち込んで行くが、相手もそれなりの金額を打ち込んでくる。言い難い絶望感がジワジワ侵食して来る。どうしようと頭を抱え込んで考えて居た時、兄の「ただいま」と言う声が聞こえて来る。

「兄ちゃんが帰ってきた！」

兄が帰ってきた事の焦り。ライバルに負けたく無い気持ち。田中は、急いで10000円の金額を打ち込む。けれども、言いようのない不安が心を支配する。

「きっと、奴なら超えて来る」

ならば超えられない様にと、0の数字を一つ増やす。そして、入札札ボタンを押して、兄にバレない様、ネットオークションの閲覧を静かに消した。

「おい、勝手に触んなっつったろ」
「……ちょっと調べたいことが。あっ……て」

冷めた兄からの視線と共に頬から伝う痛み。兄に殴られたのだ。痛む頬を抑えて、兄に謝った後、田中は静かに兄の部屋を出た。

真っ赤に腫れた頬で、何時も通りに学校に通って学校の中にあるパソコン室でネットオークションのサイトを開いた。