絞首 ページ18
Kuruma side.
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舞台から、エンディングトークの声がする。
もうそろそろAさんが戻ってくるだろう。
すぐに物を失くすので、自分の周りを見て忘れ物がないのを確認し、外へ出る準備をする。
「くっるまくーん!」
舞台袖から、Aさんが満面の笑みで駆けてきた。
たぶん、今日のネタが抜群に受けたか、コーナーで爪痕を残したかのどっちかだろう。わかりやすい人だ。
『おつかれさまでーす』
まだ少し遠くにいる彼女に、声をかける。
「着替えるからそこで待っとってな!」
『わかりましたー』
劇場の中とか、周りの芸人の目がある所ではちゃんと敬語を使うようにしている。
そして、二人になったらタメで話す。
その距離感が、なんだか秘密の関係みたいで、ドキドキする。
「おまたせ、行こか」
Aさんが、俺に優しい笑みを向ける。
『どこ連れてってくれるんですか』
「いや言わんよ笑」
『楽しみだなぁ』
·
薄暗くなった東京の街を、Aさんと並んで歩く。
もう知り合ってからだいぶ経つけど、まだAさんと二人でいることには慣れそうもない。
賞レースの舞台より、Aさんといるときのほうが緊張しているかもしれないな、と思う。
「あとねー、たぶん五分もあれば着くと思うわ」
『Aさんいつの間にこんなとこ覚えたの、この道俺も知らないんだけど笑』
「なんとここはねぇ、川西さんに教えてもらいました」
『…へぇ、』
少し恥ずかしそうに笑うAさんを見て、
あぁ、聞かなければよかった、と思った。
Aさんは川西さんのことを“永遠の憧れ”と語る。
イコール“手の届かない人”と言いたいんだろうと思うけれど、Aさんが芸人になった今、決して手の届かない存在とは言えない。
「こないだ私が東京でくるまくんが福岡で出番やったときあったやろ?そのとき川西さんとたまたま会って、」
川西さんとその店へ行ったときの話を楽しそうにするAさんを見て、気持ちが沈む。
何度か、冗談まじりに川西さんのことが好きなのか聞いたことがある。
でも、そのときAさんは決まって、有り得ないというふうな顔で否定する。
いっそ、“私は川西さんが好きだ”って、はっきり言ってくれたらいいのに。
徐々にAさんと俺の距離が縮まるのと同時に、徐々にAさんの川西さんへの“想い”が確信に変わっていく。
こんなの、少しずつ首を絞められているようで、息苦しい。
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ぴの - お返事ありがとうございます!遅くなってしまって申し訳ないです😢えぇほんとですか嬉しいです(T-T)期待しています笑続編も嬉しかったです😢♡これからも更新楽しみにしています☺️頑張ってください! (2022年2月18日 23時) (レス) id: 07f35b63aa (このIDを非表示/違反報告)
哀(プロフ) - ぴのさん» 温かいお言葉をありがとうございます( _ _ )!結末についてはお話できませんが、これからも変わらず読み続けていただけると嬉しいです🤍くるまさんメインの作品についても考えてみようとおもいます。今後ともよろしくお願いいたします! (2022年1月22日 2時) (レス) id: c39e85b81e (このIDを非表示/違反報告)
ぴの - (続き)いつかくるまくんメインの作品も見てみたいです。これからも更新楽しみにしています。頑張ってください。 (2022年1月15日 0時) (レス) id: 07f35b63aa (このIDを非表示/違反報告)
ぴの - 初めまして。いつも楽しんで拝見しています。作中の芸人さんで特別応援してる方はいなかったのですが、主様が書かれるくるまくんが素敵すぎて令ロのことが好きになりました笑。名前の出順的にくるまくんは報われないのかななんて思い少し悲しいです(TT)笑 (2022年1月15日 0時) (レス) id: 07f35b63aa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:哀 | 作成日時:2021年7月23日 16時