45.刀物語 其ノ伍 ページ47
.
鯰尾藤四郎
「馬糞は嫌いな、やつになげるー」
……今凄く嫌な歌が聞こえた
本丸の庭を散歩していると馬小屋の前を通りすがり内番中の鯰尾くんを見つける。
遠くから見ていると馬糞をかき集めながらいやな歌を唄う鯰尾くんの姿をハラハラしながら見守る。彼は髪が長いから馬糞が髪に付いたりしないだろうかとか、その歌は実行するのだろうかとか。
『……鯰尾、くん』
「あ、主!」
『待って馬糞持ったままの手で振らないでください馬糞が血飛沫のように飛び散りますので』
「主もやります?馬糞投げ」
『やりませんしやられたくもありません!』
可愛い顔してなんてことをしているのだろう。鯰尾くんは馬糞を三輪の台車に乗せるともう一度私に手を振る。律儀なのはいいがあまりに近寄り難い。
とりあえず六メートルくらいの距離をとっておこう
『えっと……馬糞は何かに使うの?』
「主は本当に知りませんねー世間知らずにも程がありますよ」
『(凄くブーメラン……)』
「畑の肥料にするんですよ。昔はよく人糞を用いていたようですが馬糞の方が肥効があるんです」
『鯰尾くんは物知りですね』
「まぁ前代の主がいた頃からいますからね」
たしかに祖父は物知りだったとよく祖母から聞かされていたような気がする。すると鯰尾くんは台車の取っ手を持って押し歩き出そうとした時、こちらに振り向いた。
「畑、見に行きますか?」
私は頷いた。
「最初は俺、内番とか面倒臭いなーって思ったんですよ」
『そうなんですか?』
「たしかに新鮮でしたけど戦に慣れてくるとなんで刀が内番をやらないといけないんだって苛々したこともありました。でも馬は可愛いですし畑で育てた野菜を美味しく食べる前代の主を見て凄く達成感で満たされて、やって良かったと思えるんです」
『……それは、たしかに嬉しいですね』
「貴女もですよ」
『え?』
「貴女にも美味しく食べてもらえれば育てた俺達は満足ですし、馬も喜んでもらえるなら万々歳です」
鯰尾くんの揺れる紙紐を見ながら私は思った。私は彼らに殺されそうになっていたのに、今では彼らに生かされている。酷く矛盾しているけれど私は彼らに感謝して何かを返していかないといけない。
『……鯰尾くん』
「はい?」
『馬当番ってもう終わってしまいましたか?』
「いえ、餌はあげましたからあとは身体を洗ったりとか」
『馬当番……手伝ってもいいですか?』
「……はい、勿論です!」
.
122人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぬっこ(プロフ) - 胸から刀を出すと言う表現がとても素敵です。続き楽しみにしてます(^-^) (2020年1月15日 21時) (レス) id: da10b377d5 (このIDを非表示/違反報告)
冬雪(プロフ) - 紫鶯さん» ありがとうございます。続きをお楽しみください。 (2019年5月16日 20時) (レス) id: 13dcdbbff5 (このIDを非表示/違反報告)
紫鶯 - とっても面白かったです! (2019年5月16日 13時) (携帯から) (レス) id: 46e1741f78 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:冬雪 | 作成日時:2019年4月29日 9時