その人は ページ38
「…だーから、何にも心配はいらないって言ってるじゃないですか」
夜風が私の短くなった髪をさらって、なびいて多少乱れたそれを耳にかけながら、私はそう呟いた。何の歪みも重りもない、まっさらで軽い声色だった。それは決して意図して努力して繕ったものではないのに、心配性な彼は私が抱いている感情を見透かそうとしているかのように、じっと私の目を見据え続けている。心の奥底にあるものまで見つかってしまうのではないかと思えてしまうくらいのその目に、怯える理由も戸惑う理由も今の私には何一つなく、口角を柔らかく持ち上げては彼を目に映す。時折彼の顔を隠してしまう紫煙がじれったく思えてしまうけれど、その奥でまだ彼が私を、その煙を隔てていても見ていてくれているのだと考えると、なんでか幸福な気持ちになれた。
私がそう言っても、それでもまだ心配の色を拭うことが出来ないでいるらしい土方さんは、一度私から目を逸らしてはタバコを口に含んで、ふぅ、とまた煙を吐き出した。私も彼から視線を外して、濃紺色の夜空に気高く浮かんでいる月に目を向けた。昨日は、晋助と二人で見ていた白い光だ。
でも今は、隣に彼がいる。たったそれだけのことで、心の中が優しく暖かい気持ちでいっぱいになる。
「…そりゃ、晋助のことは今でも大事ですよ。これからもそれは変わりません」
…私は、晋助が苦しむことを、悲しむことを望まない。晋助が苦しんでいるのなら、助けたいと思うし、悲しむ可能性があるのなら、それに立ち向かいたい。それは、今この瞬間だって変わらない。
土方さん自身が、そのことが気に食わないというわけでもないということも、分かっている。彼がもしそんな人だったなら、私は彼に、こんな感情を抱かなかっただろう。迷わず、鬼兵隊を選んでいただろう。
彼はただ、私の中で、すべてのかたをつけられたのかということを、考えてくれているのだ。自分のことを抜きにして。彼はそう、こんなにもお人好しなのだ、相変わらず。
「でも、面影を追いかけ続けるよりも大事なことがあるって、分かったから」
…いつかの記憶や、その時の感情ばかりに縛られて、それしか見えていないのは、何も見えていないのは、とても悲しいことだと教えてもらったから。
それに。
「…誰よりも、今を一緒に歩いていきたいって思える人が出来たから」
…その人は今、私の隣に居る人だ。私の傍に居ようとしてくれる人だ。
…その言葉に、私を見据えた人だ。
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Karin(プロフ) - この作品が好きすぎてもう4回ぐらい読み返してます。とっても面白くて、感動的で、大好きな作品です!銀魂のedにも使われていた桜音という曲を聴いた時に、この作品の高杉と主人公のことみたいだなぁと感じました。高杉と恋仲だった頃の話も見てみたくなりました笑 (8月4日 19時) (レス) id: 9e7f4b97d1 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ありがとうございます!こんなご時世ですので暇をもて余すこともあるかと思いますが、私の作品なんかで良ければ読んでやってください!! (2020年5月9日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - ピピコさん» 嬉しいです!楽しみに待ってます(o^^o)その間ピピコさんの小説何度も読み返しますね笑 (2020年5月9日 21時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ミウラさん!ありがとうございます…!!最後まで読んでくださり感謝です…!!高杉さんが出てくるシーンは本当に難しかったです…自分でも書いててしんどかった…!!高杉さんのお話もそのうち書きたいなぁと思っていますのでお楽しみに(o^−^o) (2020年5月9日 19時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - 一気に全巻読めちゃうくらい面白かったです!晋助様のシーンがしんどすぎてずっと泣いてました…笑次は晋助様落ちの小説も書いて欲しいです! (2020年5月9日 8時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2018年6月14日 19時