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あるはずがない ページ15

…きっと、土方さんが居る位置からも、夜空へと浮かんで飛んでいく船が見えているのだろう。見えていなかったとしても、土方さんのことだから、色々なことを察しているのだろう。私が窓の外をじっと眺めているのを、彼は見ていたのかもしれない。私が窓の外の景色を見つめながら、例えば、一人では抱えきれないくらいの悲しみや寂しさを抱いているかもしれないという可能性を見つけては、声を掛けてくれたのかもしれない。土方さんはいつも、私のことを本当によく見てくれているから、私が隠した本当の心を見透かされることも多々あった。前までの私は、そんな彼の視線に怯えていた。自分の弱い心が彼に見つかってしまうことを、敏感に恐れていた。

けれど、今は怯えることなんて何一つとしてない。彼の目は優しくて、その目に私が映っていることが、堪らなく幸せに思えてしまう。それに、私は大丈夫だ。確かに、悲しいし、寂しいし、痛いけれど。それでも、大丈夫だと胸を張って言えるだろう。別に強がって無理をして言っている訳でも、自分で自分に言い聞かせようとしている訳でもない。


…だって、私は、ここに居ることを自分自身で選んだのだから。


「……心配いりませんよ、後悔なんてしない」


もう、後悔するような選択をしない。したくないから、ここに居る。真選組としてここに居ることが、後悔へと変わることなんてない。そんなことは、あるはずがない。

土方さんを見つめながら、私は口角を上げる。得意気に。自信があるように。


「私はもう、大丈夫です」


…私に会うためだけに駆けつけて、刀を握り締めては懸命に戦ってくれる仲間達が居る。私に『ここにいていいんだよ』と受け入れてくれる人が居る。そして。


──隣には、土方さんが居る。


不安になることなんて、何もないじゃないか。


「……そうか」


土方さんは私の言葉を聞いて、安堵したように、小さく笑みを浮かべた。私は「そうですよ」と、同じように笑ながらにそう呟いた。


…遠のいていく大きな船をまた横目に眺めては、一度目を閉じて。それから私はまた続ける。


「土方さん、」

「ん?」


いつもより鋭さを感じない柔らかな声で、土方さんは続きを促した。彼の視線がこちらを見るのがわかった。


「…何もかも、やるべきことがすべて終わったら。そうしたら、」


ゆっくりと、目を開きながらに彼を見据えて。


「…約束の埋め合わせを、させてくれませんか?」


あの日伝えられなかった言葉を、伝えるために。


「…分かった」


待ってるよ、と。彼はまた、あの日と同じ言葉を私にくれた。

猛抗議 土方side→←その景色は



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設定タグ:銀魂 , 土方十四郎 , 真選組、攘夷   
作品ジャンル:アニメ
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Karin(プロフ) - この作品が好きすぎてもう4回ぐらい読み返してます。とっても面白くて、感動的で、大好きな作品です!銀魂のedにも使われていた桜音という曲を聴いた時に、この作品の高杉と主人公のことみたいだなぁと感じました。高杉と恋仲だった頃の話も見てみたくなりました笑 (8月4日 19時) (レス) id: 9e7f4b97d1 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ありがとうございます!こんなご時世ですので暇をもて余すこともあるかと思いますが、私の作品なんかで良ければ読んでやってください!! (2020年5月9日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - ピピコさん» 嬉しいです!楽しみに待ってます(o^^o)その間ピピコさんの小説何度も読み返しますね笑 (2020年5月9日 21時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ミウラさん!ありがとうございます…!!最後まで読んでくださり感謝です…!!高杉さんが出てくるシーンは本当に難しかったです…自分でも書いててしんどかった…!!高杉さんのお話もそのうち書きたいなぁと思っていますのでお楽しみに(o^−^o) (2020年5月9日 19時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - 一気に全巻読めちゃうくらい面白かったです!晋助様のシーンがしんどすぎてずっと泣いてました…笑次は晋助様落ちの小説も書いて欲しいです! (2020年5月9日 8時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/  
作成日時:2018年6月14日 19時

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