北添尋の愁思事情 ページ5
白咲Aちゃんに会ったのはボーダーに入って少し経ってからだった。今ではチームメイトのカゲと何度か衝突して仲良くなった、そんな時だった。
カゲが「付いて来い」とだけ言って勝手にどっか行こうとするのについて行ったら、当時A級部隊を率いていた彼女がいた。
それが、Aちゃんとの出逢いだった。
☆
白咲Aちゃんはとても不安定で繊細な女の子。常識があって、同級生達のツッコミ役で、バランサー的な存在の彼女は、目を離せばいつのまにかいなくなってしまうような雰囲気を放っている。少なくともゾエさんはそう思っているよ。特に目の前にいる彼女は……。
「…ごめん」
そう言って、流れ落ちる大粒の涙を袖で拭う。彼女の泣き顔はとても珍しく、ゾエさんにはもどうしたらいいかわからず右往左往してしまう。更に、Aちゃんは数分前まで同い年の男子と殴り合いをしていて、傷だらけだった。男子というのは犬飼澄晴。
ガーゼだらけでのAちゃんの顔は、笑えばきっと、今よりずっとモテているくらい整っている。
出会った当初、彼女は今よりは笑うことが多かった。笑う、というより微笑むに近いかもしれない。けれど、あの事件の後から別人のように笑わなくなっていた。微笑まなかった。
カゲに一度だけこんなことを言ってみた。
「Aちゃん、変わっちゃったね」
って。そしたら、カゲは鼻で笑った後に「昔に戻っただけだ、あいつは」と、幼馴染だからこそ言えることを言う。その時、ゾエさんには立ち入れない領域があるだと自覚した。
Aちゃんが犬飼と殴り合いの喧嘩をしたと聞いて、駆けつけた時苦しくなった。苦しそうな表情の二人に心を痛めた。
だから、そんな彼女を陰ながら応援して、支えていこうと思う。
☆ちょっといつもと違う書き方で、というか初の別side。ゾエさんの心情を書いてみました。
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作者名:三毛猫
作成日時:2018年1月4日 23時