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「そういえば、藤原さんは弟さんが居るんですね!」
『ああ………。』
あの後、何事も無く彼女のパスモとバックを取ってこれた私達は、駅に向かって歩いていたのだが、彼女が弟の話をしだした事により、私は顔をしかめる。
『いるよ、憎ったらしい弟がね』
「憎たらしい………でも!とてもかっこよかったです!」
『それは、見た目だけでしょ…騙されないで』
頭の中で、いつもアイツが私を馬鹿にするときの顔が浮かび上がり、私の気分は徐々に下がって行った。もしかしたら、私が唯一敵わないの相手は弟なのかもしれない。学力、運動能力やらは同じくらいだと思うが、どうも私生活でアイツのイタズラに引っ掛かってしまう自分がいる。実に腹立たしい。
「でも今朝、一番に私の体調を心配してくれましたよ?」
『勘違いしない方がいい、アイツが心配したのはあくまで、お前の頭だ。』
どうせ朝、「おはようございます!」と、清々しく挨拶した彼女を見て弟が「ねーちゃん大丈夫(頭)?」と、でも言ったのだろう。まぁ、彼女の兄と同じ様な反応だろう。悪意は断然、こちらが勝っていると思うが。
「そうですかね…」
『ああ、そうだ。』
念のため、『今後アイツとの交流には気を付けた方がいい』と言うと彼女は苦笑いしていた。……笑ってられるのも今のうちだぞ。
「駅、着きました〜」
『あと3分で電車が来る。』
「わぁ!ちょうど良かったですね!」
車内は冷房が効いていて涼しい。生き返る。
『にしても、お前の兄は年離れてるんじゃないのか?』
「ええ…そうなんです……元々実家は京都で、お兄ちゃんが上京してくるのと一緒に、私も高校が東京だったので着いてきました。」
話を聞いた私は、素直に『ほー。私とアイツじゃ、やっていけないと思う。凄いな。』と言うと、彼女は、「そうですかね」と、髪を耳にかけて、照れ臭そうに言った。
そして、何駅かした後、彼女は「ここです」と言って車両から降りた。だがそこは、若者の街【渋谷】とやらで、降りる人数は他の駅の比じゃない。
『人が沢山。』
「何、田舎臭いこと言ってるんですか!早くいきましょ!」
そう言ってテンションアゲアゲの彼女、私の顔色を見て「大丈夫ですか?」の一言くらいかけてほしかったものだ。私の手首を引っ張って歩き出す彼女はもう誰にも止められないと思う。
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作者名:チヨ | 作成日時:2019年8月19日 23時