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スマホのマップ片手に私は走る。
早く…早く彼女に会いたい。
その一心で。だが、体は前よりも重たく感じる。きっと筋力の問題であろう。息が切れるのも早い。
どれくらい走っただろうか……
私は30分近く走り、汗だくになりながらも私の家に着く事が出来た。
此処が私の暮らしていた家。
恐る恐るインターホンへ指を近づけると、勢いよく扉が開いた。そこにいたのは私と同じ顔をした
折原Aだった。
私はどうやって呼吸するのかも一瞬、分からなくなった。
「やっぱり………貴女が藤原Aさんですねッ!」
玄関の階段を駆け足で降りてきた彼女は私の手首を掴み「こっちです!」と走りだした。
嗚呼、前に走る彼女の揺れる長い髪は、私が毎日手入れをしていた髪だ。
どうして私と彼女は入れ替わったのだろうか…ぼんやりと考えていると彼女は公園の前で立ち止まった。
「ここで……お話しましょう。」
その公園は空き缶などが沢山捨てられていて、お世辞にも綺麗とは言えなかった。
「ベンチに座りましょう」
私は彼女の言われるがままにベンチに腰掛ける。しばらく沈黙していると彼女…折原Aが「藤原さんは…」と話し出した。
「藤原さんは、頭が良いのですね…」
『へ?』
「頭が良いだけではありません…部屋には沢山の賞状が飾られていました。最優秀賞だとか、優勝だとか…」
返答に困った。
ええ、そうなんですよと答える訳にもいかず『ありがとう』と答えると何が可笑しいのか、彼女はクスッと笑う。
「ところで……ひとつ聞きたいことがあるのですが…」
『何?』
「藤原さんは9/4死にましたか?」
彼女の淡々と言ったその言葉に、思わず目を見開いた。
『まぁ、死んだけど…トラックに引かれて』
「へへっ…偶然ですね、私もです。」
そう言って彼女は私に微笑みかけた。
偶然?まさか…これは必然だ。
『同じ日に死に、同じ姿形をした私達は入れ替わり、あの日の二日前を生きている』
不思議だ。未だ夢を見ているのではないかとすら思えてくる。
「問題はどうすれば元に戻れるかです」
『………。』
分からない。頭が回らない。
「………藤原さん。」
『なに?』
「毎週土曜日の夜8時に此処で会いましょう。私、藤原さんの事、もっと知りたいです。」
私は口で瓜を描く。
『…勿論。
約束よ。』
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作者名:チヨ | 作成日時:2019年8月19日 23時