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Episode36.雷鳴 ページ37







 右手に携帯を持ち耳に当てる。
辺りを見回せば、数えられる程の星が
頭上で光沢している。
それを覆うように分厚い雲が通り、
私の上で止まった。

一粒、駅のホームの屋根に雨が落ちた。
雫が落ちたかと思うと後を追うように、
次々と大粒の雫が落ちていき、大雨となった。
雷鳴も轟き、暗い夜を照らしている。
照らし終えたと思えば、雷の咆哮が町中に響いた。

それは電話相手のエルヴィンにも
聞こえたらしく、彼の声色が
少し心配そうな雰囲気になった。

「雷、大丈夫か?」

「大丈夫ですよ。傘も持っていますし、
夕立ちなのですぐに止みますよ」

 ホームの地面から弾んだ雫は、
リズムを刻むように私の足元を濡らしていく。
屋根の先から私の足元は距離があるのだが、
そんなことは関係ないらしい。
私は積乱雲の真下にいるようだ。


 こんな土砂降りなのに関わらず、
私の心臓の鼓動は幼少期にレインコートを来て、
水溜まりの上をわざと歩きながら
空を見上げたあの時のように、踊っている。

辺りを見渡してみれば、ホームにいる人は皆
眉は八の字になって、困っている様子だ。
私だけ、勝手に口角が上がっていて、
それが自分でも不自然に感じる。
私は鞄から使い捨てのマスクを取り出して、
表情を隠した。

 エルヴィンと電話越しに会話をしている。
それだけで、こんなに幸せになれるとは、
思いもしなかった。
実質、彼自体には会えていないわけだし、
声を聞いているだけだ。
なのに、心臓が血液を送るように、
幸福感が全身で感じられる。
ああ、私は、本当に彼が好きで、
前世よりも、彼の魅力に
溺れていってしまっている。

 私の気持ちの高ぶりと連動しているのだろうか。
雨の威力は一層増し、雷鳴は更に大きくなり、
稲妻が落ちるのまで見えた。

「本当に、大丈夫かい?」

「そろそろ、電車も来ますので、大丈夫です」

 雷鳴の威力が増し、
エルヴィンのことしか考えていなかった私は、
普通では考えられないことを思いついた。

「そうか、それじゃあ」

「あ、待って下さい」







 空を見上げ、稲妻が私の前を横切った途端に、
小声で彼に呟いた。

「好きです」

 口から言葉が漏れたのと同時に、
雷鳴が辺りに響き渡った。









「今、なんて言ったんだい?」

「いえ、なんでもありませんよ」


 それじゃあと軽い挨拶をし、
私は一方的に通話を切った。

胸に手を当てれば、雷のせいか、彼のせいか。
心臓がいつも以上にうるさかった。

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設定タグ:進撃の巨人 , エルヴィン , モブリット   
作品ジャンル:恋愛
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霰餅おかゆ(プロフ) - 煎茶さん» commuにて、メッセージを送らせて頂きましたので、返信はそちらでお願いします(^^) (2018年9月23日 23時) (レス) id: 6fb346ee4c (このIDを非表示/違反報告)
煎茶(プロフ) - 霰餅おかゆさん» あの、無礼を承知でお伺い致します。Twitterの方を訪問させて頂いたのですが、もう使われておりませんでしょうか?それならそれでもちろん結構なのですが、せっかくのご縁かと思いまして……。感想を書くところで関係ない話を申し訳ないです。 (2018年9月21日 23時) (レス) id: ea34eab2cb (このIDを非表示/違反報告)
霰餅おかゆ(プロフ) - 煎茶さん» コメントありがとうございます´`*そんな、勿体ないお言葉を...!まだまだ未熟者で、更新もマイペースですが、頑張っていきますので、今後の展開を楽しみにして頂けると幸いです( ^^ ) (2018年9月21日 20時) (レス) id: 6fb346ee4c (このIDを非表示/違反報告)
煎茶(プロフ) - 表現力が豊かで綺麗な言い回しに感動しました…!このような小説がここで読めるのは嬉しい限りです。特に中身のないコップをよく間違えて飲むので、主人公には幸せになって欲しい!(?)引き続きの更新、心から楽しみにしております! (2018年9月21日 17時) (レス) id: ea34eab2cb (このIDを非表示/違反報告)
霰餅おかゆ(プロフ) - にんじんさん» コメントありがとうございます^^*マイペースですが、頑張りますので、これからも応援宜しくお願いします(^^) (2018年9月8日 22時) (レス) id: 6fb346ee4c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:霰餅おかゆ | 作者ホームページ:http://ulog.u.nosv.org/user/okayu0013  
作成日時:2018年8月7日 22時

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