【進撃の巨人】拝啓、思い出せない貴方へ

Episode34.電話 ページ35

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｢今日は、エルヴィン来なかったな｣

　夕焼けは何色もの色を重ね、
鮮やかに空のキャンパスを際立たせている。
遠くには、昼間は白い積乱雲が
夕焼けの影響で柑子色に染まっていた。
光は見えないが、耳を澄ましてみれば、
雷の雷鳴が轟いている。
夕立ちが近いかもしれない。

　ふと、足元にあった石ころを、
子供の頃みたいに蹴って転がしてみる。
転がった先は住宅の壁で、
石はこつりと音を立てて動きを止めた。
意地を張って追いかける気力もなく、
私は駅の方へ向かった。


　祝日だったのに、エルヴィンは来なかった。
最近は毎日図書館に来ていたものだったから、
今日も来てくれるんじゃないかと
期待を寄せていた。

前までは来なかった日の方が当たり前だったし、
連絡先の交換や、お出かけもしていなかったから、
前世のことがあって、気になっていたとは言えど、
あまり気にしないようにはしていた。

しかし、彼から親密に関わるようになってから、
会えない時間が長く感じるようになった。
それと同時に、彼への欲が増していく。
もっと話せるようになるかもしれない。
毎日会えるようになるかも。
付き合えるようになるかも。
そして、前世の記憶を思い出して、
力一杯に抱き締めてくれるかもしれない。

そんなことが起きないことは、
十分承知なはずなのに、期待をしてしまう。

　駅に着き、ホームの椅子に座り、
携帯を取り出す。
連絡先の欄からエルヴィンをタップして、
アイコンをじっと眺めてみる。

今は夕方の五時四十分。
彼は、仕事を終えているだろうか。
教師の立場だから、部活の顧問を
担当していたとしたら、まだ部活中かもしれない。

メッセージアプリを開き、
エルヴィンにメッセージを送ってみる。
｢お疲れ様です。仕事は終わりましたか？｣
精一杯考えた短文を送信する。
長すぎても迷惑だろうし、
重い女だと思われるのも嫌だし、
遠回しに話して本題に辿り着けない可能性も考え、
最初の送信で本題を送った。



　返信は五分ほどで返ってきた。
その五分が異常に長く感じた。
乗るはずの電車も、携帯とにらめっこしていたら、
いつの間にか駅を通り過ぎていた。
それでも、彼から返信がきた幸せで、
そんなことは頭から消えてしまっていた。

彼は｢うん、もう終わったよ。ありがとう｣と、
笑顔の顔文字を最後に付けて、
私に送ってくれた。






　仕事が終わったのを確認した私は、
彼の電話番号を入力し、
通話ボタンを人差し指で押した。

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