【進撃の巨人】拝啓、思い出せない貴方へ

Episode18.自然 ページ19

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　右手でつり革を掴み、
左手でカバンから出したイヤホンを
携帯のイヤホンジャックに差し込み、曲を流す。
静かなバラードが最近のお気に入りで、
聞くだけで落ち着くことができる。

しかし、エルヴィンに会ったあとで
心拍数が高くなっていた私は、
曲を聞いても落ち着くことはできなかった。

　落ち着かない私は、
右に左と、目だけで辺りを見回してみる。

そこそこ混んでいる車内。
席は優先席も全て座られている。
それでも、満員電車ほどではない。
帰りの電車のわりに、普段よりも空いている。

椅子に座っている人々は、
ほとんどが携帯を見ているか、
俯いて寝ているかのどちらかだ。
それが社会現象になりつつあるのも、
この世界に生まれてきてから知っている。
もう少し、他のことに目を向けてみれば良いのに。

　窓越しの夜空を見ると、
マンションの各部屋や、
観光地の塔がキラキラと光を帯びている。
人工的に作られた光も綺麗だが、私は自然の月や、
目に透き通るような太陽の光が好きだ。
だから、心を掴まれるような感動は
あまり生まれない。

夜空の辺り一面に広がっているはずの星は、
人工的な光によって遮られ、見ることが出来ない。


　都心に来てから、地元と比べ、
科学の発展を感じてわくわくする時もあったが、
やはり私には、自然豊かな場所が
合っているのかもしれない。

空調設備がなくても、そよ風だけで過ごせる住宅。
グラスに氷を入れた時の音に似ている、
乾いた風鈴の音色。
遠くに広がる壁のような入道雲。
静かな空気を壊して忙しく鳴いている蝉たち。

夜になれば、競うように発光している無数の星々。
落ちてきた流れ星と思うような、
夜空を見なくても、近くに星があると思って、
手を伸ばした蛍。
蝉に代わって、夜は蛙が合唱を始める。

そんな、昼間と夜がはっきりわかる
地元が大好きだった。
転生前に似ているのか、そこは居心地が良く、
太陽の日差しを浴びて、
汗をかくのも気持ちよかった。

都会は太陽だけでなく、
太陽の光を反射させたアスファルトも
私に熱を浴びせてくる。
初めての都心の夏は、まだ慣れていない。




｢右の扉が開きます。ご注意ください｣

　車内アナウンスで、
最寄り駅に停車したのがわかった。
扉付近の人を掻き分け、ホームに降りる。

｢……あ｣

　ふと、斜め上の夜空を見上げると、
数えられる程度の星が見えた。

それが私が昔見ていた星で、
現在、両親も同じ星を見ていると思うと、
心が躍った。

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