【進撃の巨人】拝啓、思い出せない貴方へ

Episode12.迷い ページ13

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｢どうしよう、なにを言おう……｣

　正確に言えば、
なにから話そうと言うのが正しい。
バイトが終わり、
これから駅に向かうところを歩いている時、
スマートフォンの｢ノート｣を開き、
沈みつつある太陽を尻目に内容を考える。


｢こんにちは……いや、もう夜になるから｣

　打った文字を削除ボタンで消していく。
挨拶をする文だけでも、
緊張してすらすらと打つことが出来ない。
前世のときは、話すのが当たり前で、
そんなことは気にも留めていなかったのに。

｢あ、そうだ。SNSメッセージを使えば……｣

　そうすれば、この書いた文章をそのまま書いて
送るだけじゃないかと思い、
SNSメッセージを開く。
そのアプリの｢メール｣という欄に、
さっきノートに打った文字を書き写していく。

“こんばんは、クレアです。
エルヴィンさんの携帯電話番号を頂いたので”




　書き写している途中で、ふと我に返る。

モブリットさんは電話をしなさいって
言ってたんだった。
これじゃ、せっかく携帯電話で
直接話す機会を潰しているものだ。
エルヴィンもメールでなく、
電話で言いたいことだったのかもしれない。

｢まだ学校で勤務しているかな……｣

　もう少し時間をずらした方が良いかな。
でも、あまり遅すぎると、
仕事終わりで疲れちゃっているかな。
飲み会とか今日あるかも……。

　浮かび上がる無数の考えが
ぐるぐると頭を回って目眩がする。
考えた末に私は電話ボタンを押し、
マイク付きイヤホンをして、
電話に出る準備をする。
イヤホンからはコール音が小さく鳴り響いている。



｢はい、もしもし｣

｢あ、モブリットさん｣

　かける勇気がない私は
結局モブリットさんにかけてしまった。
モブリットさんの予想は
当たっていたかもしれない。

｢かける相手、間違ってるよ。それじゃあ──｣

｢ま、待って、切らないで下さい！｣

　電話を切ろうとするモブリットさんを
頑張って止める。
ああ、この人は優しいのに意地悪だ。

｢勇気が出ないんです！ 応援の言葉を……｣

｢さっき言ったでしょ。これ以上ありません｣

｢ちょ、モブリットさん！ 意地悪しないで──｣







　喋っている途中で、
人差し指でつんつんと背中を叩かれた。
振り返ってみると、電話をかけようとしていた人。
エルヴィンだった。
スーツ姿に、右手には革のカバン。
学校から帰る途中だったようだ。

｢お茶でも？｣

　私は、かけ途中だった携帯の電源を切り、
そっと頷いた。

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