□53話■ ページ23
□Aside■
和也「そいつ俺のなんで、離してもらっていいっすか？」
二宮さんがそう言うと、トモキは
彼の事をジロッと睨んだ。
あたしの腕を掴んでる手にも、力が入る。
いい兄を演じていないトモキは
相当余裕がないようだった。
トモキ「何お前。Aのなんなの？」
和也「ただの隣人だけど」
トモキ「ふぅん？でも、こいつに惚れてんだ？」
そう悪く笑って、あたしのことを顎でクイッとさす。
その質問にドキッとして二宮さんを見ると
目があって、すぐにそらされた。
和也「…そーだよ。好きだよ」
トモキ「やっぱな。でも残念、こいつが惚れてんのは、俺だから」
和也「…本当にそう？」
もう一度あたしの方を真っ直ぐ見る二宮さんは
切ない顔をしている。
和也「…A」
そのまま名前を呼ばれて
普段呼ばれない呼び名と優しい声に、ドキッとした。
…正直、まだ気持ちの整理がついてない。
けど、二宮さんが居てくれる。
大丈夫、今なら言える。
トモキから、離れられる…。
A「…好きじゃない」
トモキ「あ？」
A「もうトモキの事は、好きじゃない」
そう言うと、トモキは目を丸くしたと同時に手の力が緩まり
その隙に振りほどいて二宮さんの方へ逃げた。
二宮さんはあたしを包み込み
トモキから守るように背を向ける。
二宮さんの肩越しに
あたしが告白する前の、あの頃のトモキが見えた。
トモキ「…俺やっぱ…お前が好きだよA。今まで悪かった…
戻って…おいで？」
今まで幾度となく騙されたセリフ。
甘い誘惑に心が揺れるけど
ふっと顔を上げると、二宮さんがいて。
茶色い綺麗な目と、視線が重なった。
…大丈夫。もう、騙されない。
A「…もう、貴方の思い通りにはならない」
和也「…」
A「貴方の元には、戻らない」
トモキ「…じゃあもう、いいわ」
トモキはちっと舌打ちをすると
あたしたちの前を通り過ぎて、あっさり帰っていった。
A「…はぁ」
和也「ちょ、大丈夫？」
急に全身の力が抜けて
へなへなと崩れ落ちそうになる。
二宮さんはそんなあたしを支えて
心配そうに見ている。
和也「…大丈夫？」
さっきと同じ言葉
だけど、さっきよりもいろんな意味を含んでいる。
A「…大丈夫。」
もう、大丈夫。
トモキの後ろ姿を見ながら、そう思った。
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作者名：爽歌。
| 作成日時：2017年5月9日 16時
