殺人鬼と逃走劇

番外編9 浮気喧嘩（前編） ページ16

静かだった部屋の中に、怒号が響いた。

目の前に居るシンは僕が見た事も無い程に怒っていて。

「もう知らない！勝手にすれば！？」

そう言って、シンは肩を怒らせて家から出て行ってしまった。

事情も聞かず頭ごなしに決め付けるシンに、僕も内心苛立っていた。

話を最後まで聞いてくれても良いのに。

喧嘩の原因となってしまったレオは、唖然として今の光景を見ていた。

巻き込んでしまったレオに、罪悪感が募った。

レオナルド・グランは最近この街に引っ越して来た少年で、母親と二人暮らし。

彼の母親が忙しく、レオを放任していると近所の奥様達が話しているのを聞いて、心配になって会いに行った。

レオは15歳にしてしっかり者で、母親が居なくても寂しそうには見えなかった。

しかしそれは表向きで、本当はかなりの寂しがり屋で甘えん坊だった。

近くの公園等でレオと遊んでいる内に彼は僕に懐いてくれて、一緒に居る事が増えた。

最近では笑顔も見せてくれるレオが、とても可愛かった。

僕も弟みたいに接して居たし、うんと甘やかした。

シンを放ったらかしにして置く程に……

それに気付いていたシンは、僕の隣に居ても不機嫌なままだった。

前々からシンに構ってとは言われていたが、僕は生返事しかしていなかった。

おまけに先程までレオと一緒に寝ていた為、帰って来たシンに浮気をしたのかと疑われた。

流石に浮気を疑われたのは傷付いて、強く言い返してしまった。

それで喧嘩に発展した。

僕はシンが出て行ったドアの方向を見て、大きな溜め息を吐いた。

レオは子供なんだから、彼処まで怒らなくても良かったと思う。

別に何か疾しい事があるわけでもない。

でもシンからしてみれば、漸く愛した人が他の男と寝てるなんて、気に喰わなかっただろう。

彼は僕と同じで傷付いた筈だ。

何でシンを優先しなかったんだろ……ずっと独りぼっちだった彼を……

途端に後悔の念が押し寄せ、レオを振り返る。

「レオ。みっともない処を見せてごめん。今日はもう帰れる？僕、あのお兄ちゃんを探しに行かないといけないから」

するとレオは少しだけ寂しそうな表情を覗かせたが、笑顔で頷いた。

「分かった。またね」

愛くるしい笑顔で手を振りながら帰路に着くレオを姿が見えなくなるまで見送った。

……さて、シンを探しに行くか。

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