64話 ページ15
貴方サイド
つい最近のことなのに遠い昔の様に思えるあの出来事。
滴依先輩に謝る事も出来ていない。
なのに都合良く戻るなんて考えていない。
もう関わらないと決めた。それなのに何であの人達は放って置いてくれないんだろう。
僕はもう、傍にいる資格なんてないのに……
無意識に俯いた視線の横にヌッと影が現れる。
「っ！？」
驚いて悲鳴が上がりそうになり咄嗟に耐える。
「なに余所見してんの〜？」
不機嫌そうに凛月先輩はそう言い、腕組みをした。
「プロデューサーなんだからきちんと周りを見なよ。今回は俺も起きて頑張ってるんだからさ」
「あ……そう言えば凛月先輩がこの時間帯に起きてるの珍しいですよね」
最近は起きてるのを見かけるから忘れがちだけど、元々凛月先輩は昼に弱い体質だ。
それが良くずっと起きて踊り続けられるな、と内心思っている。
「ま、サボったりしたら周りに迷惑がかかる企画だし、余計な反感を買いたくないからねぇ」
凛月先輩は面倒くさそうに言い、それから何故か不思議そうな顔をする。
「ねえ、Aの首元に痣付いてない？」
「え……！？」
慌てて首元を押さえる。手の痕とか見られたくなかったから隠してたのに。
「……もしかして訳アリ？訊かない方が良い？」
コクコクと首を縦に振って肯定すると先輩はそれ以上踏み込んで来ない。
凛月先輩が他人の領域に深く入って来ない人でよかった。
いざこざが有ったなんて知られたらこの企画は終わるかもしれない。
折角ユニットの人達が集まって練習しているこの時間を無駄にするのは駄目だ。
不意に頭の上に手が乗り、見ると凛月先輩が僕の頭を撫でている。
……なんか、珍しいの連続だな。この人僕の事毛嫌いしてなかったっけ。
今までの態度が幻なんじゃないかと疑うくらい凛月先輩の表情は優しい。
「……先輩、いつもより優しいですね」
僕がそう言うと凛月先輩は少し口を尖らせる。
「え〜？俺はいつだって優しいよ」
全然そんな事ない……と言おうとしてやめた。
多分、気紛れか何かだろうと思って気にしないことにした。
その後の凛月先輩はずっと上機嫌で、やっぱり珍しいなぁ。と思うのだった。
続く (更新停止中)
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