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#001『ルパン』 ページ41

織田作side

――――寒い日だった。

中原幹部が太宰の家にやって来て、

ちょうど居合わせた私と

三人で連れ立って『ルパン』出かけていった。

今思うと、とてつもなく妙な組み合わせだ。




酔が廻るにつれて例の凄絶な、

中原幹部の搦みになり、

「そうじゃないよ」

「そうは思わない」

などと太宰はしきりに中原幹部の

鋭鋒をさけていた。

しかし、

いつのまにかその声は例の、

甘くたるんだような響きになる。

「そうかしら?」

そんなふうに聞こえてくる。

「もう行ったのか。」

中原幹部が問いかける。

「骨のない墓に行っても意味が無いよ。」

私は太宰の言葉を聞いてやっと

彼女の話だったのかとだと気がついた。

「其れでも花くらい供えてくんのが

礼儀だろ。其れに…好きだったんだろうが。」


好きだった?




この時ばかりは

異能で未来が見えていたにも関わらず、

同じ言葉に二度驚いた。



「何の花を供えれば良いかわからない」

彼女の事を思い出してか太宰が少し

顔を歪めたのを

私も、中原幹部も、見逃さなかった。

「ンなもん、

お前の好きな花でいいだろうが。

…チッ

青鯖が空に浮かんだような顔をしやがって。

全体、テメェは何の花が好きなんだ?」

太宰はとうとう閉口して、

今にも泣き出しそうな顔になった。

「あ? 何だテメェの好きな花は」

まるで断崖から飛び降りるような

思いつめた表情で、しかし甘ったるい、

かつての恋人に囁くような声で、

とぎれとぎれに太宰は言った。

「も、も、の、は、な」

言い終って、例の愛情、不信、含羞、拒絶

何とも云えないような、

くしゃくしゃな悲しいうす笑いを泛べながら、

しばらくじっと、中原の顔をみつめていた。


「チェッ、だからおめえは」


と中原幹部の声が、肝に顫うようだった。

そのあとは一体どうなったか、

いきさつが全くわからない。

少なくとも私は太宰の側に立って、

中原幹部の抑制に努めただろう。

気がついてみると、

中原幹部は太宰の蓬髪を握って

掴みあっていた。

それから、ドウと倒れた。

グラスが粉微塵に四散した事を覚えている。


いつの間にか太宰の姿は見えなかった。

その時の、中原幹部の心の平衡の状態は

今どう考えても納得はゆかないが、

それまでの会話がどうしても思い起こせない。







数日後、安吾とその話になってやっと

納得がいった。

二人は彼女に想いを寄せていたのだ…と。

不幸な少年の噺→←#000 黒が双つ



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置いときもの(プロフ) - 黒木宙さん» コメント有難うございます!更新頑張りますのでお待ちくださいね!!体調に気を付けます!笑 (2017年7月17日 18時) (レス) id: 001e2135c2 (このIDを非表示/違反報告)
黒木宙(プロフ) - 何時も楽しみにしています!次が待ち遠しいです笑体調には気を付けて頑張ってください! (2017年7月17日 18時) (レス) id: 0545e227ea (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:置いときもの | 作者ホームページ:http://user.nosv.org/p/oitokimono/  
作成日時:2017年6月15日 23時

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