【短編集】星紡ぎ【あんスタ】

お弁当【衣更真緒】 ページ5

「……できた！」

この卵焼きは、我ながら自信作だ。最初は真っ黒に焦げてしまったりして半泣きだったんだけれど、コツを掴んでからは美味しい卵焼きを作ることが出来るようになった。

ここ数日の発見は、マヨネーズを少しだけ入れたらふわっとした卵焼きが作れるということ。後は毎日同じじゃ飽きるだろうから、チーズを入れたり、ネギを入れたりしてレパートリーを着々と増やしている。

……喜んでくれるかな。

私が毎朝早起きをして、お弁当を二つ作っているのには理由があった。

隣のクラスで、彼氏の真緒。生徒会の業務が忙しくて、お弁当を作る暇もなく毎日購買のパンを食べていた彼を見かねて、私がお弁当を作ることにした。

一番初め、料理なんてほとんどしたことのない私が作った歪なお弁当でも、彼は美味いといって食べてくれた。だけど、それじゃあ申し訳ない。毎日の特訓の末、見た目も味も誰が見ても褒めてもらえるようなお弁当を作れるようになった。

お昼休み、私はお弁当の包みと水筒を持って屋上に向かう。扉を開けたら、そこにはすでに彼の姿があった。彼は私を見つけると、明るい笑顔になる。

「おいっす、A」

「お疲れ様、真緒！」

いつものように隣に座ると、彼が抱えていた資料が目に入った。私の視線に気がついた彼は、苦々しく笑う。

「まだ仕事が終わってなくて……悪いんだけど、ここでやってもいいか？」

「うわ、大変だね……。大丈夫だよ、なんなら手伝おうか？」

そう言うと、彼は首を振った。Aにまで迷惑をかけたくないから、と紙に目を落とす。

「迷惑なんかじゃないよ。というか、真緒が仕事してるのに私はお昼ご飯食べてるなんて出来ないし……」

「じゃあ、頼み事をしていいか？」

何かを閃いたような顔で、真緒は私を見る。なんでもどうぞ、と胸を張ると、彼は私に向かって大きく口を開いた。

「あーん」

「……え？」

「えっ、ってなんだよ。……俺が仕事してる間に、お弁当。食わせてくれない？」

そう、再び口を開く真緒。納得して口に卵焼きを運んだら、彼はもぐもぐと咀嚼した後美味い、と笑った。

「お返し」

なんて聞こえたかと思うと、彼が卵焼きを掴んで目の前で微笑んでいる。あーん、なんて、なんだか恥ずかしい。

けれどその表情に逆らえなくて、私は口を開いた。……甘くしたわけでもないのに、その卵焼きはとっても甘くて。頰に熱が集まるのが、よくわかった。

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