引っ越し ページ2
ブブブ…と規則的なバイブレーションが聞こえる。
エナメルバッグの外ポケットを漁ると放置されていたスマホが震えている。
皐月さん、と表示されているそれを持ち席を立つ。
さっきご飯を食べて帰るとメッセージを入れたところなのだけど…
少し離れたところで電話に出ると少し気まずそうに彼は切り出した。
皐月「今からお迎えにあがります。」
『え、でももうすぐ徹達と一緒に帰りますし…』
皐月「…Aさんのお爺様のご意向です。
あの家を、出て行くことになりました。」
すでに荷物は運び出されていると、続ける。
あぁ、皐月さんがいつか言っていたな…
お母さん達が頼んであの家にいさせてもらえることになったけど、何かあったら引っ越しだと。
…離れ離れになるのかなぁ…
力が抜けてスマホが手から滑り落ちそうになるのを堪える。
緊張しているのか体は重いし、しびれているかのようにいうことを聞かない。
説明を続ける皐月さんをどこか遠くで流れているラジオのように聞き流す。
…高校には変わらず通えるのか。
それならまだよかった。
『お迎えはいつ頃…』
質問をしようとした途端店のドアが少し乱暴に開かれる。
近くに立っていたものだからびっくりして小さく声を上げてしまう。
スーツを着た数人の男性が一瞬で店にお金を払い終え、私の鞄を持ち、拉致するかのように車に誘導する。
驚いているチームメイト達に安心させるように微笑む。
ひなは悲しそうに目を伏せているだけだった。
ーーーーーー
連れてこられたのはお屋敷街にある篠原家本邸で、パーティーの時に私が使っていた部屋だ。
すでに運び込まれていた私の家具の他にブランド物の紙袋や箱が山積みされている。
…どこの天空の城の王族の生き残り少女だろうか…
もともと着ていたような一般的な私服はここへ運んだ人のお気に召さなかったのかクローゼットには知らないワンピースばかりがかかっている。
パジャマもどうやらスウェットはダメらしい。
女の子らしい柔らかい生地のネグリジェが代わりに用意されていて、下着もレースなどがふんだんにあしらわれている物に変わっている。
いきなりの事に驚きもするし、誰かは知らないがここまで買い与えられて、無断で元々のものをどこかへやられて嫌な気持ちも強いが…
…少し残念な事に用意されているものが全て趣味ドンピシャなのだからまたタチが悪い…
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作者名:あやにゃん | 作成日時:2019年4月16日 0時