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これ以上場の空気に耐えられなくなったのだろう、藍沢のひと言に彼女ははっとして頭を下げた。
「すみません、お忙しいのに長居してしまって。
また、いずれお邪魔させていただきます」
そう言って丁寧に頭を下げた妻の後ろを、当たり前の様子で藍沢が付き添う。
「え、大丈夫だよ、ひとりで帰れるよ?」
「いい、送っていく」
患者さん運ばれてきたらどうするの、と渋る彼女の肩に手をおいて、彼は問答無用で医局を去った。
残された彼らの間に、一拍置いて盛大なため息がこぼれ落ちる。
「藍沢が結稀奈さんに惚れた理由…分かったわ」
「あれじゃあ溺愛するのも納得よね」
うんうんと頷き合う緋山と白石に、放心状態の藤川は藍沢先生が結婚…しかも子ども…とうわ言のように繰り返している。
横峯は素敵だったよね結稀奈さん、と名取と灰谷に同意を求めれば、彼らは我に返ってそれぞれ頷く。
それぞれの反応を見守っていた橘は、藍沢にもようやく心の支えができたかと、ひとり安堵の笑みをこぼした。
さて、場所は変わって翔北救命センター正面玄関。
「もう、大丈夫だって言ったのに」
「安定期に入ったとはいえ、まだ気が抜けないだろ。
お前はすぐに俺や子どもを優先する」
「……だって、大好きなパパだから」
その言葉に満足げに笑った藍沢の顔を、救命のスタッフが見たら何事かと慌てるだろう。
それほどに彼の瞳は、愛おしげに彼女を見つめている。
普段はひとつのミスすら許されない繊細な技術を持つ指先が、するりとやわらかい髪を撫でる。
「…じゃあ、頑張ってね」
「あぁ。
気をつけて帰れよ」
結稀奈を見送ったあとの藍沢の顔は、とても清々しいもので、同期たちの脳裏にいまも焼き付いているのだとか────。
比翼連理 -Fin-
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Mitsuki - いです!お忙しいことと思いますが、更新頑張ってください(^ ^) (2018年1月4日 18時) (レス) id: aed2f04add (このIDを非表示/違反報告)
Mitsuki - 明けましておめでとうございます!もうすっかり香坂先生ファンです笑リクエストで、 香坂先生の新年の目標が聞きた (2018年1月4日 18時) (レス) id: aed2f04add (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 名前変えさせていただきました。以前 仰られていたホンマでっかのやつ見てみたいです~(●^o^●)時系列とか、まぁ 気にしません! (2017年12月29日 22時) (レス) id: 6208755813 (このIDを非表示/違反報告)
あい - 更新ありがとうございますっ!!神ですね…((T_T)) (2017年12月26日 9時) (レス) id: 6208755813 (このIDを非表示/違反報告)
美月 - 私のところにも香坂先生サンタが来て欲しいです・・・! 素敵なクリスマスプレゼントをありがとうございました! ayanelさんのペースで、これからも更新頑張って下さい! (2017年12月26日 8時) (レス) id: d6d184a47b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年8月18日 3時