拾漆・再会と予兆と ページ21
《朝霧side》
『…ん?』
家財道具の買出しを終え、紙袋を抱えて帰ろうとしていた時、知った顔とすれ違った気がして、私は振り返った。
…やっぱりな。
『よっ。久し振り、犬嫌い君』
「ーーきちんと名前で呼んで下さい」
『御免御免。二年振りだな、蜜柑嫌い』
「…嫌いな物シリーズ止めませんか」
『悪い。…でも本当、久し振りだな』
ーー芥川。
「…お久し振りです、A先生」
非常に弄り甲斐のある黒外套の男は、そう云ってぺこりと頭を下げた。
『仕事中?』
「はい、一応」
『そうか。…まあ、根詰め過ぎん程度に頑張ってな』
「…有難うございます」
私が芥川と出逢ったのは、探偵社に来た翌日の事。以来何故か、時々顔を合わせては喫茶店で取り留めの無い話をする仲になっていた。
尊敬していた上司が前触れ無く蒸発して了い、自分を肯定して呉れる者が居ない虚しさを抱えた儘日々職務を熟して居る…と聞いた時は、普通に同情して相談に乗ったものだったが。
職場がポートマフィアで、尊敬していた上司が太宰と判ってからは…どうも。
更に問題なのは、向こうは自分がポートマフィアだと私にばれている事を知らない上、私が探偵社の者だと知らないと云う事だ。露見したら後が怖い。と云うか最早、恐怖しか無い。
まあ、そんな事で目の前で悩んでいる若者を見捨てる程、私の教師魂は柔じゃ無いが。
其れに、出会った切っ掛けが切っ掛けだったからな…。
『又相談に乗るからな。何時でも瓦斯抜きに来いよ』
「…はい」
***
手を振って別れ、折れそうに細い後ろ姿が人混みに紛れた頃、私は嘆息した。
私だって莫迦じゃ無い。前方で燃え上がる軍警の屯所が、誰のやらかした事か位判る。
つい先刻ポートマフィアと思しき女性から探偵社に偽の依頼が来て、敦と谷崎兄妹が調査に行ったとも聞いている。
『ーー衝突の予兆、か』
ふと、二年前、表現をぼかしにぼかし乍ら、恐る恐る自分は黒社会の者だと私に告げた時の、芥川の痛みを堪える様な表情を思い出した。
今の仕事を楽しんで…了っては探偵社の一員として色々困るのだが、それでもせめて、彼奴に一瞬でも、笑って居られる瞬間をあげたいと思うのは、私の我儘か。
そんな事を思い乍ら、携帯を取り出す。
『太宰』
「何?先生」
『芥川に会った』
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つばき先生(プロフ) - ヒスイさん» 有難うございます。頑張ります! (2016年12月23日 23時) (レス) id: c6022dbc98 (このIDを非表示/違反報告)
ヒスイ(プロフ) - 作品に参加頂きありがとうございます!とても面白かったです♪♪続き気になります!!応援してます♪☆10評価しました!! (2016年12月23日 21時) (レス) id: a217f5439d (このIDを非表示/違反報告)
つばき先生(プロフ) - いちごどーなつさん» ありがとうございます。見ての通りの展開の遅さなので、何処まで行けるかは不安ですが…頑張っていきたいと思います! (2016年12月15日 20時) (レス) id: c6022dbc98 (このIDを非表示/違反報告)
いちごどーなつ(プロフ) - 私もきっと生徒達と同じ反応しますw 続きが気になります! 更新楽しみにしてます(*´∀`)♪ (2016年12月15日 16時) (レス) id: f60c6d1c16 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:つばき先生 | 作成日時:2016年12月13日 15時