法も何もあったもんじゃないとは思うが ページ46
バーの中へと辿る階段から降りた私の前に、無云でオレンジジュースが置かれた。一応守れる法は守っておかないとね。今日も美味しいですと感想を云えば、マスターは嬉しそうに皺がある目を細めて、頭を下げた。
太宰さんは今日とて頼んだ酒を飲まずに、その中の氷が無くなるまで見つめ続けている。一つの氷が溶けて、カランと音が鳴った。
その時丁度、店の扉が開く音がする。私達が二人揃ってそちらを向けば、見慣れた赤銅色の髪の毛が揺れた。
「やァ、織田作」
『どうも』
織田作さんは、返事の代わりに手を掲げた。それから私の隣に座って、太宰さんに「何をしていたんだ」と訊ねる。彼は笑ったまま、専門学的な発云で煙に巻いた。あは、と苦笑いする私とは正反対に、織田作さんは尚も訊ねた。
「それは何だ?」
「世の中の大抵のことは、失敗するよりも成功するほうが難しい。そうだろう?」
「そうだ」
「じゃあ私は、自 殺ではなく自 殺未遂を志すべきなのだ!」
いたくキラキラとした目でそう宣った彼の脳内には、一体何が詰まっているのか訊きたくなるぐらいだ。それなのにいざという時はとんでもない思考力を発揮するもんだからタチが悪いと云える。
自分が発見した物凄い事実(だと本人は思っている)に嬉しそうに笑みを浮かべた彼が、「マスター、メニューに洗剤ある?」と訊ねた。ある訳ないだろという私の突っ込みが届いているかどうかは知らないが、マスターは至って平静に「ありません」と云った。
「洗剤のソーダ割りは?」
「ありません」
「ないのかぁ」
「なら仕方がないな」
織田作さんは店内を見回した。
──もう、分かった。【黒の時代】だ。とうとう、なってしまったんだ。こんな莫迦みたいな会話ももう二度とできない。
「また傷が増えたな」
「増えたねえ」
織田作さんは私を見て、「凪はそれほど怪我をしていないな」と云った。私が任務に同行することはほとんどないですし、と苦笑交じりに答えた。大体、怪我の理由は彼が思っているようなものではないし。
織田作さんは太宰さんの脚を指さして、「その脚の怪我の理由は?」と云った。太宰さんはいつもと変わらない表情で「『不意の怪我をしないために』っていう本を歩きながら読んでいたら、排水溝に落ちた」と返す。
口を押さえた。駄目だ笑うな私笑っちゃ駄目だ私。
豆腐の角ってそういうもんだっけ→←番外編・もしも探偵社でディ○ニー行ったら 終
619人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
白夜の世界 - ユーヒ様、申し訳御座いません。ですが、優姫ちゃんは死んだおりません。作品の中では余り細かい描写をしていないのですが、今昏睡状態になっております。…あと、本当にどうでもいいかもしれませんが、ユウキちゃんです…。御気分を悪くさせてしまい申し訳御座いません (2019年4月3日 7時) (レス) id: 15ab1d9eda (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界 - ゆきな様、ありがとう御座います!其方もお体に気をつけて下さい! (2019年4月3日 7時) (レス) id: 15ab1d9eda (このIDを非表示/違反報告)
ユーヒ - 夢主の親友が私と同じ名前で、死んだって聞いて何かショック。('' ) (2019年4月3日 1時) (レス) id: 1dd8890cea (このIDを非表示/違反報告)
ゆきな(プロフ) - ヤバい太宰さん変t))ん"ん"…織田作かっこいい!(中也さん推し)これからも無理せずに頑張ってください (2019年4月3日 0時) (レス) id: e7791cc44f (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界 - 船長様、ありがとう御座います!此れから続編へ行きますので、どうぞ次の話も、宜しくお願いします! (2019年4月2日 15時) (レス) id: 15ab1d9eda (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/
作成日時:2019年2月24日 21時