織田作にドッキリとか絶対無理じゃね？ と思った今日この頃。【黒の時代】

連絡先交換、其の弐 ページ26

紅葉姐さんの執務室に『どうも』と云いながら入ってみれば、一瞬きょとんとした姐さんはすぐに妖艶に微笑んで、「おお！ 如何かしたかの」とぽんぽん頭を撫でられる。

慥かに姐さんの方が背が高いのだが、私がいつも背が伸びないのはこうやって頭ぽんぽんされることが多いからではないのか。そんな風に今思いついたことを云うと、何故か涙が滲むくらいに大爆笑された。



……そんなに笑われる内容だっただろうか。ちょっと赤くなってしまった顔を隠すように俯くと、「まぁそう拗ねるでない」と子供でもあしらうみたいに云われた。いや拗ねてる訳ではないんですが、なんて反論すれば更にその誤解が凝り固まったものになりそうだったので黙っておく。


そうじゃなくてと用件を伝える。連絡先を交換したいのだと云うと、着物の袖からすぐに携帯を取り出してくれた。多少まごついたが、一応交換はできた。


彼女は小さくガッツポーズをした私を見て、口許を隠しながら微笑んだ。



「……あぁ、ところで凪、此れがお主に似合うと思って買ったんじゃが、如何かのう？」



そうやって差し出された着物を見て、私の笑顔が硬直する。姐さんはニコニコとして笑っていて、それは全くもって私の笑みと違うそれだった。そうだった姐さんに会うとこうなるんだった……。


姐さんが出して来たのは、桃色のかなり派手な着物。あはは、派手なのは苦手なので、と云い訳めいたことを喋る。実際私服は白シャツにジーンズというシンプル過ぎる服ばかりだ。


そうか、と紅葉姐さんは少し残念そうに云った。




「ならば、これは如何かの？」




今度出して来たのは、白と藍の落ち着いた感じの着物。いや慥かに派手さはなくなったけどね、あのそういう意味じゃなくてですね。


……なんて云える筈も無く、着せ替え人形にさせられた私だった。はは、エリスちゃんを笑えねえわこりゃ。












「愛いのう！ 誠に愛いぞ、凪！」

『……は、はは……そうですか……』


そうやってコロコロと笑う紅葉姐さんとは相対的に、私の笑顔はどんどんと引き攣ったものになっていた。最終的には笑顔というか無表情になった。

あぁちなみに、これは後日の話になるのだけれど、太宰さんのコートの中に私のこの時の写真(着物ばかり美しい癖に本人はクソ無表情)が出て来たので速攻で破り捨てた。何で持ってたんだよあの人。

連絡先交換、其の参→←連絡先交換、其の壱

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す