伝家の宝刀「まあいっか」 ページ3
「太宰、太宰治という名だよ。君は?」
『私は──』
そう云って言葉に詰まる。なんて云えばいいのだろうか、もし此処が本当に私の世界と違うなら、私の戸籍や個人情報、その他諸々凡て無い筈だ。そして太宰さんの服装を見る限り、今は恐らく「黒の時代」。彼の情報網をもってすれば、私のことなど半日足らずで調べて仕舞うだろう。何も出ないと思うが。
そしてこの状況。女一人がろくに荷物を持たずに峠にいる。こんな怪し過ぎる女を、彼が調べない訳がない。
私はそこまで考え──。
『まあいっか』
伝家の宝刀「まあいっか」を抜いた。友人に散々「絶対に止めろ」と云われていたが、まあ楽な方に流されるのが人間だよね。仕方ない仕方ない。
太宰さんは何が、というような表情をしたけれど、それ以上追及することはなかった。私は曖昧に笑って誤魔化す。
『
そう言って手を差し出した。太宰さんは少し驚いた様に私を見て、それからその握手の為に差し出した手に視線を落とす。しばらく戸惑うようにふらふらしていた視線だが、彼はふっと笑みを浮かべた。
原作で見たことがないくらいに、年相応だった。
「……うん。宜しく、凪ちゃん」
ナチュラルに名前呼びしてきやがったことは置いといて。
さてそうと決まれば、と太宰さんは唯一持っていた携帯電話を懐から取り出し何処かへと連絡する。大体十分程待つことになったが、此処で朽ちる他の選択肢がなかった私からしたら天使のファンファーレみたいなもんである。
黒塗りの高級車が到着して、太宰さんは私のことを背負って中へと運んだ。歩けると言ったけれど、こういうことをさらりとやれてしまうからイケメンなのかもしれない。
車の中に入るなり、彼は「ねえねえ、私の職業何だかわかる?」と訊ねてきた。無論マフィアですなんて答えられないので、『え、えーと。さ、さあ。何なんですか?』と云った。
そして「実はね。マフィアなんだよ?」と少年のような好奇心旺盛な瞳で、爆弾発言を落とした。
あまりのことに目を見開く私に、あははと太宰さんが笑い声をあげる。
……いや、彼がマフィアということは知っている。けれどもそれを初対面の私に何の躊躇もなく話したということが驚きなのである。
しばらく大爆笑(不本意)していた太宰さんだが、笑い過ぎで出て来た涙を拭う為に目尻を手で擦った。果てしなくウザい奴ということが今此処に確定した。
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白夜の世界 - ユーヒ様、申し訳御座いません。ですが、優姫ちゃんは死んだおりません。作品の中では余り細かい描写をしていないのですが、今昏睡状態になっております。…あと、本当にどうでもいいかもしれませんが、ユウキちゃんです…。御気分を悪くさせてしまい申し訳御座いません (2019年4月3日 7時) (レス) id: 15ab1d9eda (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界 - ゆきな様、ありがとう御座います!其方もお体に気をつけて下さい! (2019年4月3日 7時) (レス) id: 15ab1d9eda (このIDを非表示/違反報告)
ユーヒ - 夢主の親友が私と同じ名前で、死んだって聞いて何かショック。('' ) (2019年4月3日 1時) (レス) id: 1dd8890cea (このIDを非表示/違反報告)
ゆきな(プロフ) - ヤバい太宰さん変t))ん"ん"…織田作かっこいい!(中也さん推し)これからも無理せずに頑張ってください (2019年4月3日 0時) (レス) id: e7791cc44f (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界 - 船長様、ありがとう御座います!此れから続編へ行きますので、どうぞ次の話も、宜しくお願いします! (2019年4月2日 15時) (レス) id: 15ab1d9eda (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/
作成日時:2019年2月24日 21時