イグニス4 ページ12
イグニスは多くは語らなかった。
怪我の原因はオルティシエの時の戦争の中で負ってしまったと、ただそれだけで。
その時負った傷が元で、失明していると聞かされた。
俺はそのことにとても強いショックと同時に、自分を嫌悪した。
彼が失明しているのなら、今の自分がどんな姿だとしても認識されない。言葉さえ失わなければ…。
そう少なからず思ってしまった。どうしたらそんなひどい発想になれるんだと、自分が嫌になる。友達が光を失ったというのに。
「気づかず、すまなかった」
俺は今イグニスに連れられてモービルで休憩をとっていた。備え付けのベッドに腰を下ろしてうなだれるように頭を抱える。
悪い知らせと自分への嫌悪で胸のあたりがずしりと重くなり、「疲れたから休みたい」と言って連れてきてもらったのだが、それを彼は「疲れているのに無理強いさせている」と勘違いしたようだった。
モービルのキッチンで水のような音が聞こえるとカチカチという音が聞こえる。たぶんガスコンロに火をつけたのだろう。ということは水の音はポットに水を入れた音だったんだろうか。
「今まで、どこで何をしていたんだ?俺も、皆も心配していた」
何分無言でいただろう。気づけば向かい側のベッドに座り、近くにあった小さなテーブルに紅茶のセットが置かれている。
モービルに入った時気付いたが、彼は目が見えないというのに動きに一切のよどみがない。まるで見えているかのような身のこなしで、本当に見えていないのかも不思議に思ってしまう反面、傷を負った時を知らないが、今ではなんとか生活を送れているのであろうということが分かりホッとする。
「これを…、体がひどく冷えているようだ。冷えは体にはよくないからな」
黙っていると、テーブルに置かれていたふんわりとした湯気を立ち昇らせているティーカップを手に取り差し出してくる。
受け取り一口。しかしそれは何の味もしないものだった。そして暖かさえも感じない。ただ何かが口に入り何かが喉を通る。
アーデンと別れる前、言われたことがあった。
『君はあまりにも不完全な存在だからあんまり動いてほしくないんだけどねえ、いつどこでどうなってもいいならいいけどさ…俺の近くにいた方がいいんじゃないかなあ?』
不完全というのは、こういう事なのだろうか。ただそれだけなら、あいつの近くにいる理由もない。
ぼんやりと思い出していると、頭にぽんと何かが落ちてきたのだった。
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作者名:オチャネコ | 作成日時:2019年10月22日 12時