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イグニス5 ページ13

「シャワーを浴びて少し休むか?」

頭に落ちてきたのはイグニスの手だった。左右にゆるく撫でられる。

体自体は特に疲れてはいないが、少し気持ちを落ちつけたくてシャワーを浴びることにした。こじんまりとした場所ではあるが、個室だからか少しだけ気持ちが落ち着いた気がする。

いまだにかぶったままのフードをはぎ取り、シャワーのかかっている壁にある鏡の中を覗き込んだ。

「………」

カエムに居た時に鏡を見た。

その時は暗くて正直よくわからず…、いや理解したくなかっただけだ。俺は今頭から額にかけて黒ずんだシミのようなものがジワリと浮きだしている。体に関してはいまだにその症状はない。

『俺のと似てるねえ』

そう言いながらアーデンが見せてきたものは、自分と同じか…、いや俺のとは少し違う。俺のはシミのようなものだが彼のものは明らかに液状のもので、範囲も広く体中がそれに覆われてしまっていて、何が起きているのか理解ができなかった。

それについて聞こうとしたが、「内緒」と言われてそれ以上聞くこともできなかったが、「でも君と俺は違うから安心して」となおさら混乱する様なことを言われた。

俺はアーデンにオルティシエで殺されたらしい。でもその記憶はないし、現に今俺は生きている。あいつの言う事なんて真に受けちゃいけない。きっとどこかにぶつけたんだ、そうに決まっている。

でも…

いや、考えるな。考えても仕方がない。

「大丈夫か?」

突然シャワールームの扉がノックされて体がびくりと反応する。モービルの壁は少々薄く、シャワーを使えばその音がわりとはっきりと聞こえてしまう。その音が聞こえないのでもしかしたら気になったのかイグニスが来たようだった。

大丈夫だと言うと、返事を聞かずにシャワーの水量を最大にする。

先ほどの紅茶と同じく、何かぶつかる感覚はあるが、それが温かいのか冷たいのか、やっぱりわからない。

体でも洗おうと、ボディソープを取ろうとした時の事だった。

ポンプに手を伸ばすと黒い袖が見えて、自分が服を着ていることに気付き、慌ててシャワーを止めたがすでに遅く全身びしょぬれになっていたのだった。

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作者名:オチャネコ | 作成日時:2019年10月22日 12時

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