▼Day.55 ページ47
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「左馬刻さん、先に帰っていいよ。ちょっと一人になりたい。
ごめんね」
その時の私の笑顔はさぞかし下手くそで滑稽だったろう。
独歩さんから借りたコートは少し大きくて、でも今の私には丁度良かったんだと思う。襟で口元を隠して顔を伏せれば誰にも泣き顔なんて見られない。
少なくとも私の存在を人混みに紛れさすことくらいは出来た。
(左馬刻さんに悪いことしたな……)
大きな背中を見送ってもう一時間ほど経ったのかな。
謝んな。帰ってこい。
たった二言を告げた渋い表情を思い出してずきりと心が痛む。
どうしようか。昨日までの気持ちが嘘みたい。
足取りは重い、頭はあの人のことばかり考えている。
「流石簓さんだったね!」
「ほんと!お腹痛くなるくらい笑っちゃった!」
「………やっぱり人気者じゃん」
そう、彼。白膠木さんのことばかり。
(会いたい、って言ったけどやっぱり会いたくない)
我儘だな私。でも気づいてしまった。
白膠木さんはスーパースター、私は一般人。
夢でもなければ出会う確率は無いに等しい。
─────A、ちゃん……?
「っ!き、っとあれは気のせい……!
ちゃんと聞いたわけじゃないもん…!」
そうだ、勘違いということでいい。それがいい。
「知らない…っ、私は白膠木さんを何も、」
どこかに消えてしまいたい。
そうでもしないと記憶と気持ちがチグハグでおかしくなってしまいそう。
閉店のアナウンス。逆流する波を涙目で走り抜けた。
(やめよう。あの人のことは忘れよう。
早く帰って気のせいだったって独歩さん達に伝えよう)
「っ、は、ちがう、」
(そしたらまた帰る手段を探して家の手伝いをして、そうだ。
たまにはシブヤやイケブクロにも行って、みんなに会って。)
「─────!?」
─────会いたくて。
じんわり。
あの人のことを考えると泣いてばっかりだ。馬鹿バカ。
引かれた手首を辿って視線を動かす。
「Aちゃん」
「──────、」
こんな時まで白膠木さんの幻聴が聞こえるなんて、本当に馬鹿。
ハリボテ眼鏡の奥の鋭い瞳だけは私の情けない顔をしかと映し出した。
その男を白膠木さんだと認識した時には手遅れだったんだろう。
彼の細い指で口を塞がれ微かに呼吸する。
そして少しだけ躊躇った表情で彼は言った。
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るる(プロフ) - 簾さん» 簾様、誤字のご指摘ありがとうございます。該当のページは修正させて頂きました。また何かお気づきの点ございましたらご報告頂ければ幸いです。 (2022年8月16日 22時) (レス) id: b70bae4cdb (このIDを非表示/違反報告)
簾 - day46の最後、るるって作者様のお名前ですか…? (2022年8月16日 21時) (レス) @page21 id: 7996fa9caa (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 朱鳥さん» 朱鳥様コメントありがとうございます。星評価足りないなんてとても嬉しいお言葉ありがとうございます。いよいよ二人の新展開が始まりました!今後とも更に楽しんで頂けるよう頑張りますので乞うご期待ください。サイト開設しましたらまた告知させて頂きます。 (2022年1月6日 10時) (レス) id: b70bae4cdb (このIDを非表示/違反報告)
朱鳥(プロフ) - 更新お疲れ様です。どんどん引き込まれていく展開で毎回ハラハラドキドキしてます。たくさん押したいのに星の評価が足りないくらいです。サイト開設されましたら是非、そちらも見に行かせていただきたいです。 (2022年1月5日 0時) (レス) @page46 id: 53a215b2a7 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - なっつさん» なっつ様コメントありがとございます。過去作まで何周もして頂いてとても嬉しいです!今後とも続きを楽しみにお待ちください!お気遣い頂きありがとうございます。なっつ様もお身体に気をつけて。サイトも開設しましたら告知させて頂きます! (2022年1月3日 10時) (レス) id: b70bae4cdb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:るる | 作成日時:2021年11月15日 21時