居候がおりまして。【白膠木簓】

▽Day.15 ページ39

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「じゃあ宜しくね。帰るまで簓さんは私の彼氏だから」




今の俺にとってなんて願ったり叶ったりなお願いをしてきたんやろう。ロングスカートを靡かせて今日も彼女が振り向く。




「家に着いたら？」

「余計なことは話さん」

「宜しい。話広げたらキリがないから適当に流してね」




あ、ここ。と顔を上げれば、なんてことはない普通の一軒家が視界に入ってきた。久しぶりにジャケットに袖を通したけど、初舞台を思い出すような緊張感に身体が竦む。

ふと玄関の鍵を開けようとした彼女の手を上から掴んだ。




「なに」

「し、深呼吸させてや…」
「早くしてよ」




これはコントやない。彼女にとっては嘘を繕うだけやろうが、こっちは結構本気なとこもある。

展開が早すぎんねん。




「ふはっ…変な顔。緊張したりするんだ」
「簓さんもピュアボーイやからな」


「どの口が言ってんの」
「いたっ」




口に手を当てて笑うAちゃん。
あかん、やっぱり目ぇ逸らせんくなるわこの顔。

自分の気持ちに気づいてからもう何遍も頭ん中で唱えてる。






「そのうち別れたってことにするから。緊張しなくても大丈夫だよ」


「……………、おん」






彼氏なんて、ずっと出来ひんかったらええのに。






ガチャ


「！」
「もう、なかなか入ってこないからこっちから開けちゃったわよ」






勝手に開いた玄関から顔を出したのは、どことなく隣の彼女に似た顔立ちの女性。




「お母さん」
「おかえり。…あら、貴方がもしかして、」




Aちゃんに向けられた視線が俺に向く。急に喉に何かが詰まってうっと声を出すと、隣から小突かれた衝撃で身体がびくりと反応した。





「…白膠木簓言います。宜しゅうお願いします」





演技や演技。落ち着いて笑てたら乗り切れる。
まあ、とAちゃんのおかんが一息つくとゆっくりと口を開いた。




「いつもAがお世話になってます。さあ、立ち話もなんですからどうぞ」




優しく微笑まれたのを確認して促されるように家の中に入った。Aちゃんが軽く談笑する中、俺の心は只事ではなかった。






「………くっそ、こんなん寿命縮まるわ」






赤くなった顔が二人にバレないように手で隠す。


これじゃあ結婚の挨拶やん。心臓壊れそうやわ。

ちゃんとバレんで帰れるか不安なってきた。



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