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〔藍沢〕
ヘリが飛び立った後、俺たちは処置室で搬送されてくるだろう患者を待っていた。いつもの事、いつも通りの確認。それなのに、心の何処かに何かが引っかかっている。
多少風の強い日はある。
いつもの事だ、それなのに。
じわじわと、胸を染めるこの不安は何なんだ。
無意識に、指先に力が篭る。
嫌な予感に眉を寄せた時、胸元のPHSが鳴った。
「藍沢だ、どうした。」
『40代男性、どうやら脳挫傷だ。脳ヘルニアの徴候は見られないが、血腫がどこにあるか分からない。』
「穿頭するのが良いが…他の患者はどうなってる。」
『1人は骨盤骨折だ。最優先で搬送するつもりだ。』
「…白車で搬送しろ。気圧の変化がどう影響するか分からない。」
『分かった。最低限こっちで行う。後は任せる。』
「嗚呼。」
暗くなった画面を見つめAの無事に、ほっと胸を撫で下ろした。隣で通話を聞いていた藤川が骨盤骨折か、と真面目に準備していたかと思ったら不意にくるりと俺を振り向いた。
「で?何をそんなに、あつーく画面見つめちゃってる訳?」
「…黙って準備しろ。」
これ以上面倒な事に巻き込まれる前に撤退しよう、と頭部外傷に対応する為に準備を進める中、一瞬和らいだと言うのに再びじわじわと広がる不安感。
この不安感にイラつきが止まらない。
「こちら翔北ドクターヘリ。患者情報を連絡します。」
スピーカーから聞こえてきた名取の声に、カチリと医者のスイッチが入った様な気がして。一瞬で意識が切り替わる。運ばれてくる患者を迎え入れる準備をして。
それでも消え去らない不安感を振り払うように、処置室を出て名取と患者を迎え入れる。何時もの様に患者情報を聞いて、バイタルをチェックして名取をヘリで戻そうとした時。
名取のシーバーから切迫した雪村の声が聞こえた。
《 雪村ですっ!あの、A先生がっ…! 》
「何、どうしたの。」
《 …っ、子供を庇って、A先生が負傷…現在、意識ありません…っ 》
「えっ…」
《 患者2名は、被害ありません。他に誰か来られませんか…! 》
時が止まった様に、思考が停止した。
時折漏れ聞こえる嗚咽だけが静かに響いて、俺達を取り巻いていた。
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うたプリ大好き?(プロフ) - 続き気になっています この作品はもう更新されないのでしょうか? (2019年8月30日 9時) (レス) id: 48370e286a (このIDを非表示/違反報告)
再びこなみ - 17 遥→はるか (2018年8月16日 9時) (携帯から) (レス) id: cb44cdb910 (このIDを非表示/違反報告)
こなみ - 8 遥→はるか (2018年8月16日 9時) (携帯から) (レス) id: cb44cdb910 (このIDを非表示/違反報告)
東雲 昴流(プロフ) - さくらさん» コメントありがとうございます!ふと思い出して書き始めたので遅くなってしまうかと思いますが、頑張ります…! (2018年7月28日 19時) (レス) id: ad54c4129e (このIDを非表示/違反報告)
さくら(プロフ) - 続き楽しみにしております。 (2018年7月28日 17時) (レス) id: 15bef8530f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:東雲 昴流 | 作成日時:2017年8月18日 1時