陸 ページ8
是光の気配に気を取られた隙を見て、男はなまえからすり抜け、縁側に出て障子に手を掛けて振り向く。
慌てて珱姫もなまえに駆け寄ると2人は男を見た。
もちろんなまえは睨んでいる。
「ーぬらりひょん。人はワシをそう呼ぶ。おまえ、面白いな。また来るぞ...」
そう言い残すと、ぬらりひょんと言った男は消えていき、ガラッと勢い良く是光が駆けつけた時には、何事も無かった様に二人は歌留多モドキをしていた。
ー「おまえ、面白いな」
そのセリフが、どちらに向けられたのか。
はたまた両方か。
まだ二人は、知る由も無い...。
ぬらりひょん...覚えておこう。
***
なんだあいつは。
噂の珱姫を拝みに来るために来たら、突然現れた女子。以前何度か下見に来ていた時から、世話係としていたのは知っていたが、実際はどうだ。
女子とは思えぬ体捌き、己を拘束した時の力の強さ。そして何より引っかかったのは...
「あいつ、」
半妖...か?
下見に来た時には妖気は一切感じなかったというのに。今日のは間逆。しかも並半端のモノではない。
「ふっ...面白いのぅ」
確かに絶世の美女とやらも不思議な能力を持っていた。正直驚いたのは事実。
「もう少し、遊んでもいいじゃろ」
妖艶な笑みをこぼしたぬらりひょんは、しばらく通う事を決めたのだった
***
その夜。
結局あの後、珱姫の父親との会談は放置し、夕餉はちゃんと一緒に彼女と過ごしたので、なまえは少し機嫌が戻っていた。
そして毎晩恒例のイベントがこのひと時。
煙管を手に珱姫の縁側から外へ出ると、とある一角に腰を下ろした。
いつもの場所、何時もの風景。そして必ず裸足で出るのだ。
手入れされた庭は、緑の芝生と枯山水の様な砂利場。
裸足でその地面を感じながら吸うのが自己流であり、邪魔されたくない瞬間である。
『あたら夜の 月と花とを おなじくは あはれ知れらむ 人に見せばや』
物思いにふけると、人間は哥を詠む
平家の時代には特に哥は文の代わり。
ふと、春の宵に詠んだのが思い出されて口ずさんだ。
白い息を吐いて、その哥に浸る。
これは、大切な哥だった。これは...大切な記憶...
「ー煙管の匂いを辿れば...あんたか」
『!...ぬらっ..んぐ!?』
「おっと。大きな声出すな。珱姫が起きるぞ。それにしても、いい哥を詠むのぅあんた」
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作者名:ばっちゃん | 作成日時:2018年1月27日 23時