漆 ページ7
「…やけに花の国の城下町に詳しいんはそういうことか…」
目の前の大きな建物を下から見上げながら、彼は何かに納得したかのように息を吐いた。
「ただの侍女です。大した役職ではないので、そんなに驚かないでください!
…それに小さい頃は城下町で生活していた庶民ですので。」
“城の人間”なんて言葉は私に向けて言われる言葉ではないのだ。
私は別にこの国の姫君でも無いし、地位も高くない。言ってしまえば城に身を置かせて頂いてるただの一般庶民である。
となりで未だに唖然している坂田さんを見て、坂田さんが今頭の中で描いている「私」はきっと本物の「私」より偉く、賢く、地位の高い人間なのであろう。何だか申し訳なくなってきた。
「え、城に住んどるって。ちょ俺まだ信じられへんのやけど。」
「だから別にただの侍女ですよ。」
嘘やん!!と中々オーバーなリアクションを見せる彼は、やっぱり子供みたいだ。
・
ーーー「送って下さりありがとうございました!」
門の前に着くと、私の顔を見て、門番が扉を開けてくれた。
残念だが、坂田さんとはここまでだ。
城の中はもちろん城の者しか入れない。
私は彼の方に体を向けた。
「今日は不慣れながらも案内させて頂いてとっても楽しかったです!
花の国はいい所でしょう、旅の休憩にでもまたいらしてください。」
坂田さんは頬を緩ませ私の手を握った。
「俺もめっちゃ楽しかったで!
…また会いに来てもええか?」
「ええ勿論です!また、どこかで会える日を__」
「おおきに、また会える日を___」
門の前で小さくなる背中を見えなくなるまで見送ると、一日の疲れが体にのしかかって来るのを感じた。
そういえばずっと歩きっぱなしで疲れたな。
早く自室に戻ってゆっくり休もう。
早足で長い廊下を渡り、部屋の戸をゆっくりと開いた。
___
「よっ、遅かったじゃねえか」
「…っうらた様!?
…と、その両手は…?」
待ってましたとでも言うように両手を広げて構えているのは、本日二回目の不法侵入を遂げたこの城の主、うらた様だ。
「いや抱きついて来ねえかなって。来ねえの?」
ぱたぱたと両手を動かし、私を誘う。
「あの…大変恐縮ですが、今回は御遠慮させて頂きます。」
「分かった。じゃあその喋り方今すぐやめろ。」
「そう言われましても…」
「じゃあ俺の腕に抱かれるか?」
「…うらたくん。その選択はずるいよ。」
押しに押されて仕方なく言葉遣いを変えた私を見て彼はとても気分が良さそうだ。
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音羽(プロフ) - めっちゃ続き気になる!!!! (2021年11月22日 21時) (レス) @page8 id: 6bfe6097e5 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます!(´;ω;`) (2020年11月26日 21時) (レス) id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
雨上がりのcrew(プロフ) - すごい。。。この作品私得←これからも更新頑張ってください!! (2019年7月30日 17時) (レス) id: 11f12a305b (このIDを非表示/違反報告)
奏 - ヤバいぃイィィイ!面白すぎて語彙力がとろけるチーズになりました←これからも更新頑張って下さい!ずっと応援しています!! (2019年7月30日 15時) (レス) id: eb18b63c38 (このIDを非表示/違反報告)
歌波 - さいこう! (2019年7月29日 15時) (レス) id: b72e644e8b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ne6 | 作成日時:2019年7月23日 3時