その刀剣、───につき。 (ページ25)

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第拾陸話ページ25

がん、と鈍い音が響く。手に返ってくる硬い感覚。自分の攻撃が、敵を護る刀装を砕いただけに終わった事を悟るのに、そう時間はかからなかった。

「……ッ！和泉守！」
「任せろ！」

悲鳴の様な声が漏れる。振り上げられた敵の太刀。其れと春畝の間へ浅葱色の羽織が躍り出た。
鮮やかな一閃。斬撃が走る。煙となって霧散する歴史修正主義者を見、春畝は安堵の息を吐いた。

「ナイスだハル！」
「サンキュ。助かった」

二刀開眼。脇差と打刀のみが行う事を許された連携。春畝と和泉守がやった其れは拙く未完成で、堀川と和泉守がやってのけたものには遠く及ばない。和泉守が無理をして此方に合わせてくれたのだろう。そんなことはわかっている。

自分に実力が足りないのは、自分が一番解っていた。
堀川の様に戦場を駆け、敵の懐に飛び込む勇気も。
加州と大和守の様に息の合った共闘をするだけの経験も。
歌仙の様に圧倒的な力を以って敵を屠るだけの力量も。
自分には、無い。

やはり違うのだ。オレでは、本物(アイツら)には敵わない。
模倣された出来損ない(・・・・・)の偽物(オレ)では、本物に成る事は絶対に出来ない。

───だったら何だ。
生き汚いと後ろ指を指されて嗤われたって構わない。
彼には遣らねばならぬ事がある。

「こっちはもう大丈夫。残党はオレが片付けておくからさ。あっち行ってあげなよ」

致命傷を負い、地を這い蠢き乍も未だ此方の首を落とさんと藻掻く歴史修正主義者をちらりと一瞥し、春畝は言の葉を零す。顔は動かさず、真っ直ぐ和泉守の浅葱色の瞳を見ながら静かに頷いた。

大丈夫、任せてよ。自分に言い聞かせるように言葉を吐く春畝の声は微かに震えている。怖いのだろう。彼の初陣、其の怯えぶりは尋常では無かったのだから。

「覚悟なら、決まってる」
「……解った」

渋々、といった和泉守は引き下がる。
彼に助力を求めては何の意味も無い。此れはオレ独りの問題で、オレ一人でやらなければならない事。
オレには遣らねばならぬ事がある。

「───春畝兼定という刀が、此処に在ったと。確かに生きていたと証明出来るなら。何だってやってやる」

此れは唯一、オレの生きる意味だ。
彼が背を向けて、加州等の加勢へ走り出したのを見届けて春畝はぼそりと声を零した。

「ねぇ。オレ達(・)さ、お互い……とんだ不幸者だったね」

誰にも聞こえないふたりごと(・・・・・)。
彼以外には解らない、悲しい哀しい独り言。