第壱話 ページ3
重い灰色が冷たい白銀を吐き出し、辺りを白で彩る此の季節。肌を刺す
時は如月。寒さで赤くなった指先に息を吐き、彼は首に巻いた赤の襟巻きへ顔を
「新しいお仲間かぁ……今度はどんな奴かな」
其の喚び声に呼応する様に炉の焔はちらちらと火花を散らす。実体を持たぬ霊が肉体を得て地上へ降りて来るが如く、ふわりと薄桃の花弁が散る中
あぁ、こんな季節でも花が咲くのか。
そう言いたげに見開かれた青に近い瞳へ映った桜の花を一瞥すると、打刀───加州清光は艶やかな赤の眼を細める。
一見現世風の洋服をそつなく着こなし、此方を見上げてくる彼は短刀……いや、脇差だろうか。
生意気そうな猫目に既視感を覚えていれば不意に彼が口を開いた。
「……ココ、何処？アンタは？」
声変わりが前のまだ高い少年の様な声。
自分よりも遥かに大きな相手に対し臆すこともなく不躾に言の葉を吐く。其の堂々とした様子にへぇ、と加州は声を漏らし僅かに口角を吊り上げた。
「俺、加州清光。川の下の子、河原の子ってね」
「……新撰組一番隊組長、沖田総司の愛刀。だっけ」
「そーそー、ご名答。それでお前は？」
ふーん、と言いたげな目線を投げ掛ける
対して彼はオレ？と細い人差し指で頬を掻きながら漸く自らが何者なのかを言葉にして吐き出した。
「春畝兼定。二代目兼定、通称之定の作」
ハルって呼んでよ、と脇差───改め、春畝は手に持った杖をくるりと器用に回す。どうやら帯刀していない様であると思えば成る程、春畝兼定といえば伊藤博文が所有した仕込杖ではなかったか。
現世で人の子が着る制服の様な服ということもあり、左腕に持つ無骨な杖が全く似合わなかった。不釣合いで不恰好。言い表せないような違和感が加州へのし掛かる。
「……ま、いいや。案内するから付いてきて」
首を横に振りその思考を追いやった。春畝へ言葉を掛け背を向けるが、此方が歩き出しても付いてくる気配はない。
彼は天井を見上げ、不思議そうに小首を傾げて数度目を瞬かせていた。それが加州の目には違和感を払拭しようとしているように映るのだった。
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作者名：氷空 | 作成日時：2018年11月3日 21時
