【шτ】3月12日のワンルーム【sm】 (ページ7)

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[4]Abandoned ページ7

「…くそ、ミスったな…」
気付いた時にはもう遅く、彼女が好んで履いていた真っ黒なブーツは玄関から消えていた。九割九分九厘自分が原因であることに腹が立って、まだ少し湿っている髪をぐしゃぐしゃにした。
事の発端は数十分前になる。
「これ、昔のAか？」
「え"」
ゆきさんから「これ昔のAね」と送られてきた一枚の写真。中身は数人の少女が笑顔で並んでいるものだった。勿論ゆきさんも彼女も写り込んでいたが、その当時の彼女の姿に俺は硬直してしまった。
ツインテールに、ひらひらのワンピース。顔の横ではダブルピースをこしらえている。いかにも"可愛い子"といった様相なのだ。
そして俺は、最大のミスを犯した。
「なんか…ぶりっこ感強いな」
「…ぁー、うん…まぁ…ね」
「当時どうだったんだ？」
「………だろ」
「は？」
「俺の昔の話なんてどうでもいいだろ！」
彼女の地雷を踏み抜いたのだ。
今まで聞いたこともない程酷く掠れ、吐き捨てるような叫びの後、一呼吸置いて彼女は続けた。
「別に今のお前に関係あることでも無ぇだろうし、俺だってあんなゴミみてぇな記憶は消したいし…あぁクソっ！」
「おい、そこまで言わなくても」
「うるせぇ黙れ。これ以上あの頃に関しては聞くな」
「…わかった」
鬼気迫る彼女の姿に気圧され、まだ事の重大さを理解していなかった俺は、一旦冷静になるためシャワーを浴びに行った。まぁ、それが結果として彼女の家出のチャンスとなってしまったのだが。その結果が今である。
「ゆきさんのとこ行ったか…？」
今の季節、日が暮れればかなり冷え込むものだ。頭を冷やす為なのかはわからないが、あまり長時間外に居るのは宜しくない。彼女のスマホは無いが、防寒用の上着は全て置きっぱなしだ。彼女の行くあてを探すべくスマホの電源をつけた。

『お、やっぱそうなるか』
まずは、とコンタクトをとったゆきさんからの第一声が、これだった。正直ハァ？となった。何なんだ。理解が追い付かない俺に、ゆきさんからの追加のメッセージが届く。
『実は、今回こんなことやったのは』
『スマイルを試すためなんだよね』
『どういうことだ？』
『文字通り』
『後は頑張ってね、どこに行ったかは知らん』
驚愕で声が出ない。頼みの綱としていたゆきさんがこの流れを仕組んだのか。かといって、彼女を放っておく訳にもいかない。特段多いわけでもない友人たちに連絡を回し、俺自身もコートを着て玄関を飛び出した。