【шτ】3月12日のワンルーム【sm】 (ページ1)

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Prologue ページ1

秋頃。結婚式とかいう幸せの象徴のような所で、俺はお前の中身を知った。
特に仲が良かったわけでも無かった友人の結婚式に仕方なく出席して、適当に時間を潰して、二次会は欠席して。帰るために式場を後にしようと数分歩いた先に、お前は居たんだっけか。新婦側の知り合いだったか？面倒だよな。
お前の様相は、祝いの席に居たとは思えないものだった。
ドレスコードはしっかりしていて、メイクだって美しく施されているのだろう。それでも、滲み出る鬱蒼とした空気感は隠しきれていなかった。おまけに手には煙草が握られている。俺に気付いたお前は焦点の合わない黒瞳をきろりと此方に向けてこう言い放つ。
「はじめて見たでしょ」
あは、だなんて下手くそに笑って、ヒールをかつりと鳴らして此方へ小走りで近付いてくる。あの時は正直何かと思ったよ、前までと違ったからな。何時もにこにこ、八重歯を見せてけらけら笑う姿が印象に残る彼女は何処かへ消えていた。
「帰るのか？」
「それはあんたの方でしょ」
「お前は何なんだよじゃあ」
「え？死のっかなあって」
「は？」
「ん？」
テンポ良く交わされた会話。何事もないように発された"死"のフレーズ。そりゃあ焦ったよ。「なんか飽きたしつまんないから死ぬ」とか突然言い出すんだから。
「何お前、ゆきさんには言ったのかよ」
「あいつ？言ってないや、帰って話つけよ」
「いや待て死ぬのは確定なのか？」
「さあ？しーらねっ。気分だし、飽きたかどうかだし」
「なるほど分かった飽きなければ死なないんだな？」
「多分そう。自分でもわかんねーけど」
何であそこまで必死になってお前を止めようとしたのか、今でもよくわかんねえな。え、何、好きだったんじゃないのか、って。一理あるな。今は好きだけど、あの時はどうだったんだろうな。──おっと話がずれた。まあ良いか。ぐだぐた言うお前をゆきさんの所に無理矢理引っ張ってって事情を説明して、何故か俺があの時に気付いて…あぁ思い出すだけでも恥ずかしいな。ってか何で突然この関係の始まりを話せって言い出したんだ？あー、丁度半年経ったのか、へえ。なんか感慨深いな。

俺がお前をそんな長く引き留めるなんて。
お前がここまで飽きずに生きてるなんて。

「だんだんいつものスマイルに戻ってくの面白かったわ」
「お前が茶々入れるからだ」
「何それ責任転嫁じゃん」
「はは、まあ文字通り嫁相手なら別に良いだろ、な」
狭いワンルームの二人に、春が来た。