34ページ:呼称 ページ34
「ほら、大抵あの人って呼ぶだろ?お父さんって呼んでないのかい?」
「…」
私は小さく首を縦に振った。
…そういえば呼んだことはない。あの人を親扱いしたくないから、という理由だが。
結局段々、私への警戒度が結構下がった。だがそれでも、親と呼ぶ気はない。…いや、親扱い出来ない、と言うべきか。
「そうか…なら記念に一回だけでも呼んでみない?」
私はすぐに首を横に振った。
「…えっと、恥ずかしいからか?」
私は視線をテレビに向けた。互いにしばらく口を閉ざし、部屋にはテレビからの話し声だけが響く。静寂が辺りを支配した。
数十秒後、隣から堪えるように喉をくつくつと鳴らす音が聞こえた。
私は睨み見るように、隣のおじさんを見る。
「っくく…お前も可愛いとこあるんだな」
笑われてしまった。
私は溜息を吐いて半ば呆れたように、おじさんをじっと見つめた。
「ああ、ごめんごめん。ちょっと意外だなって思ってな」
あまりにも可笑しかったから笑ってしまった、と。
勘弁して、と心の中で呟くが、声に出してはいないので届かない。
「まあまあ、でもたまにはお父さんって呼んでみなよ」
「…何で?」
…恐らくは揶揄っているのだろう。顔が笑っている。
私は嫌そうに聞いてみると、おじさんは上機嫌のまま答えた。
「何でって…そりゃあ親子だし、あの人、だと他人みたいじゃないか」
それは確かにそうだが。
どうしたものか、とテレビを見ながら対応に困っていると、エプロン姿のままこちらにやってきた保護者が私達に混ざってきた。
「…あまり困らせてやるな」
「はは、ごめん。つい」
保護者は私と同じように呆れているようだった。腕を組みながら注意すると、食事をするテーブルの近くにある椅子に座った。
おじさんは保護者に注意されると、頭を撫でながら私に謝ってきた。
「…別に、僕の呼び方は何でもいいからね」
私が気にしないように、と気遣ったのだろうか。保護者は微笑みながら言った。
…ただ欠片ほどだが、残念そうにも見えた。
「…はぁ」
軽く溜息を吐くと、隣のおじさんは機嫌を損ねてしまったと思ったのか、心配そうな顔をした。
「父さん」
私が一言だけテレビを見ながら言うと、二人はぴしり、と固まった。
「…たまには名前、呼んで」
短くそれだけ言い保護者に視線を向けると、目を見開いていた。
しばらく保護者は、しばらくの沈黙の後答えた。
「…分かったよ、零ちゃん」
保護者は今まで以上に微妙な顔をしていた。
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卵かけご飯の醤油 - みつるさん» ああ、確かに盛者必衰の方が多分内容的に合ってますね。私、てっきり諸行無常も盛者必衰も同じような意味かと思ってて…今ウィキ先生で調べてみました。どうやら意味合いが違うようです…わざわざご報告、ありがとうございます。修正しますね。 (2019年5月29日 19時) (レス) id: ecf6ee3b9e (このIDを非表示/違反報告)
みつる - 49ページなんですけど…諸行無常ってなんとも言えないという意味だと思います。多分盛者必衰の間違いかと…間違ってなかったらすみません(>_<) (2019年5月29日 18時) (レス) id: d6e134e20f (このIDを非表示/違反報告)
卵かけご飯の醤油 - すすぎさん» そうなんですか…もしよろしければその私の小説と似ているという小説の題名を教えてくれませんか?出来ればその小説と話が被らないようにプロットを書き直すつもりなので… (2019年5月26日 12時) (レス) id: ecf6ee3b9e (このIDを非表示/違反報告)
すすぎ - あまりにも似てるものがあったので..... (2019年5月26日 11時) (レス) id: 28118ed8c0 (このIDを非表示/違反報告)
卵かけご飯の醤油 - ありがとうございます。まさか読みやすいというコメントを貰うとは思っていませんでした…嬉しいです。これからも更新頑張ります。 (2019年5月25日 14時) (レス) id: ecf6ee3b9e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:卵かけご飯の醤油 | 作成日時:2019年5月17日 15時