番外編【3】エルヴィンと靴屋#1 ページ13
エルヴィンside
私がマリー・ジョンに呼ばれたのは貴族のパーティーからしばらく経ったある晴れた午後だった。
調査兵団本部から王都まで馬でいくと、朝早く出発しても着くのは昼過ぎだ。
王都について早々お腹の中で鳴るムシを、持ってきた乾パンで黙らせる。
壁外に出ると休みながらご飯を食べている時間はない。
壁外調査の経験が長くなるとそうなるのも仕方ないだろう。
まったく食に対して無頓着だと我ながら感心するな......
そう思いながら階段を上がろうとすると、数段上にいたらしき人物が突然「きゃっ」と声をあげた。
と同時に悲鳴をあげたその主はバランスを崩しながら私の上に落ちてくる。
思わず手を広げ反射的にその場で受け止めた。
その人物は顔面から私の胸に飛び込んだ形となり、顔は見えなかったが容姿からして恐らく女性なのだろう。パンツ姿の小柄な黒髪の女性。
彼女が持っていたであろう鞄はガタンと音を立てながら階段に転がった。
「......大丈夫ですか?」
顔面を私の体にぶつけた衝撃で鼻が痛かったのであろう。
鼻を抑えながら顔をあげた女性を見てハッとした。
その目は大きく見開かれ、揺れる瞳は透き通るような美しいエメラルドグリーンだった。
「す、すみません!」
鼻を少し赤くしながらその女性は私の腕を掴んだまま固まってしまっている。
階段から落ちたのだ、この状況を理解するのに時間が少しかかっても問題ない。
「......立てそうですか?」
そう聞くと、恥ずかしさからか少しはにかみながら、「大丈夫です、ありがとうございます」と笑顔を見せた。
私が差し出した手を掴みながら女性はゆっくり立ち上がると周りをキョロキョロ見渡した。
「か、鞄は......」
女性が持っていたケース型の小さな鞄は階段の下に転がっていた。
幸い、誰にもぶつからずに済んだようだ。
鞄に気づいた彼女はホッとした顔をし、私の顔を見上げながら
「助けてくださり、ありがとうございました。その制服、調査兵団の方ですね。あの......お名まえだけでも」
そう言われて私は笑顔で顔を横に振った。私が団長だと分かれば彼女も気が引けてしまうだろう。
「いや、名乗るほどの事でもありません、......怪我がなくて良かった。どうぞ、気をつけて」
鞄を拾い上げ、彼女に渡すとお互いの手が少し触れた。
彼女は笑顔でペコっとお辞儀をすると、反対の道へ歩いて行った。
これが私と彼女の初めての出会いだった。
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作者名:ナツメグ | 作成日時:2017年5月22日 21時