ありがとう ページ43
西島君は私のマンションの駐車スペースに車を停めた。
「どうもありがとう、送ってくれて。ラーメンもご馳走さまでした。次は絶対に私が払うからね」
『いいの、そんなこと女の子は気にしない』
「気にしないって言われても、気になる」
『あーもう、だから、“ありがとう♡” でしょ』
ニィっと笑った西島君は運転席から降りた。
『部屋、何階？』
慌てて助手席を降りた私に西島君は尋ねてきた。
でも、彼は私の返事を聞かずに歩き出した。
歩くの速っ、待ってよ！
さっきの話もはぐらかされた。
西島君はちょうど開いていたエレベーターに乗り、私が追いつくのを待ってくれていた。
『何階なの？』
「あっごめん6階」
エレベーターの扉が閉まり、上昇する感覚。
『ごめん、誰かに見られたらまずいなと思って、早歩きだった』
そういうことか。
「わざわざ部屋まで送ってくれなくても…西島君て本当に心配性」
思わず笑ってしまう。
『いや、心配なのもあるけど、今夜は俺が誘ったし、部屋まで見送りたくて…笑うなよ』
西島君も気恥ずかしそうに笑った。
「ふふっ、ありがとう」
『ハートマークが足りないな』
「はいはい」
エレベーターを降りてから、西島君は私の歩幅に合わせて歩いてくれている。
「うち、ここだから」
『ん…』
「今日は話を聞いてくれて、本当にありがとう。そばにいてくれて、嬉しかった」
『俺がそうしたかっただけだよ』
「彼とのこと、ちゃんとしたいと思う。香織とも、会って話するね」
『うん、みおなら大丈夫』
西島君のその言葉にまた、勇気づけられる。
「西島君がいてくれるもんね。今度やけ酒、つきあってよね」
少しだけ強がりを言ってみた。
『もちろん、いつでも』
優しい眼差しで私の強がりをまるごと受け止めてくれる西島君は、本当に優しい人だ。
「じゃぁおやすみなさい」
『ん、おやすみ。またな』
西島君はくしゃっと笑って、通路を引き返した。
彼のまっすぐな笑顔は、まるで子どものように純粋で、私の心を和ませてくれる。
男の人にしてはちょっと細いその背中は、頼もしくて、大きい。
本当に、ありがとう。
ありがとう、西島君。
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作者名：さら | 作成日時：2018年10月29日 0時
