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目を覚ますと、最初にやることがある。
手を、まっすぐ天井に伸ばし、グッと握って、また開く。
体を起こして、深呼吸をする。
ベッドから降りて、机に並べられた本を一冊手に取る。
タイトルのない。中は白紙の文学書。
私に与えられた役目を確認して、文学書を元の場所に戻す。
振り返って、サイドチェストに置かれた『首輪』を手に取り、首につける。
ひんやりと冷たい感触に目が冴える。
私がこの体を使っていると、ようやく自覚できる。
そうして、いつもと変わらないことを確認して、ため息をつく。
安心と同時に、恐怖が来る。
いつか自分が消えるという、変わらない事実を確認する。
そうして私の一日は始まる。
異能力となった彼女と会話したのは、昨日のこと。
ヨコハマ郊外で起きた、通称『DEAD APPLE事件』から、丸一日が経っていた。
戻した本をもう一度抜き出して、手中のそれを眺める。
右手で首に触れれば、いつも通り、先ほど付けたばかりの器具がある。
声に出さなければ、私の異能力は発動されない。
奴らが私を管理するために取り付けた『首輪』。
疑似声帯のほかに、GPSと、今はもう壊れた盗聴機能がついている。
これをつけている限り、奴らが私を手放す気はない。
これをつけている限り、私の行動は奴らに監視され続ける。
これをつけている限り、私の身に何かあったと判断されれば、奴らがすぐに駆け付ける。
これをつけている限り、私の異能力は発動されることは無い。
これをつけている限り、私はこの世界に縛られている。
これは、私につけられた『飼い犬』の証し。
「はぁ……」
ため息を一つ零す。
「それでほっとしている私がいるんだものな……救いようがない」
これを付けていれば私に自由は無いが、私はこの世界に居られる。
縛られて、強制的にいさせられる。
「ほんと、救いようがないなぁ……」
ため息と乾いた笑みが漏れる。
彼女は全部、見抜いているのに、私はずっと、知らん顔だ。
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2021年4月24日 1時